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絵コンテで見る、ちはやふるの世界
第五回 伊藤智彦氏に聞く、
第四首「しつこころなくはなのちるらむ」で力を入れたシーン

伊藤智彦 プロフィール

愛知県生まれ。『MONSTER』、『アカギ』といったマッドハウスを代表する作品の絵コンテ、演出を歴任。『デスノート』で監督助手を、『魔人探偵脳神ネウロ』では助監督を務めた。劇場作品では『時をかける少女』、『サマーウォーズ』の助監督として活躍。その後フリーとなり『世紀末オカルト学院』にて初監督となる。現在は人気ライトノベル原作の『ソードアート・オンライン』を監督として準備中。

−− 新作でお忙しい中、お時間いただきまして恐縮です。

伊藤 いえいえ、自分でよければ(笑)。

−− 伊藤さんがコンテを担当された第四首では、高校生になった千早達が初めて本格的に登場しますね。

伊藤 そうですね。そういう意味では、あらためてちゃんと競技かるたの試合をする話数とも言えるので、どうするかというのは考えました。初見の人には(競技かるた独特の)テンポ感とか、どう詠まれてどう取るのかとか分からないので。

−− かるたのやり方を視聴者に分かってもらうという意味でも、大事な話数だったと。

伊藤 はい。『アカギ』もそうだったんですが、ルールのある競技では、かなりそのあたりは意識するんです。今後のことを考えて、試合の見せ方はいくつかパターンを作る必要があると思いました。例えば、かるたの頭の句を詠む時に、誰を見せるのか。詠み手なのか、対戦相手なのか、それとも千早なのか。それらをまずはパターンとして提示して、今後の話数に繋げられればというところです。

−− 絵コンテを描かれたのは、他のコンテができていた時なんですか?

伊藤 浅香さんの1話のコンテは見ました。

−− 参考にされたところはありました?

伊藤 原田先生が中無し【注1】で迫ってくるところは、1話で女帝(宮内先生)が迫ってくるところを参考にしています。あれぐらいコミカルでも(この作品の演出としては)問題ないというところで、作品性の線引きを示したかったんです。

−− ちなみに1話のコンテ以外で、他に参考にされた作品などありますか?

伊藤 CXのドラマで「かるた小町」 というのがあるんですよ。静岡が舞台で、富士山が見えるんです。主にかるたシーンの参考のために見てみました。

−− 四首はかなり原田先生にスポットがあたっている話数でもありますね。

伊藤 原田先生はメンター(導き手)なんです。どの作品でもそうなんですが、メンターというのはドラマを形成する中で凄く大事な人なんです。

−− 試合の話になりますが、キャラクターが動かない中で、集中してる様子を表現するのは見せ方として難しかったのではないですか?

伊藤 それは、自分は荒木(哲郎)組【注2】だったわけですから(笑)。『デスノート』じゃないですけど、イメージカットに振るわけですよ。今回はやってないですけど、例えば畳を宇宙に見立てたりとかですね。背景を暗くして、集中してるということを画として視聴者に感じさせるといった工夫もしています。

−− 最も試合で印象的だったのが、千早が最後に札を取るところだったのですが。

伊藤 あそこはトリプルアクション【注3】を使っています。『世紀末オカルト学院』の1話でも使っていますね【注4】

これが見せ場、というのが視聴者にも伝わってくるトリプルアクション
これが見せ場、というのが視聴者にも伝わってくるトリプルアクション

 

−− 同じ動作がカメラポジションを変えて3回テンポよく見せられますね。

伊藤 でも大事なのは、トリプルアクションを使うことそのものではないんです。「そこまでにトリプルアクションを使わない」ということですね。

−− これが見せ場だ、というのを打ち出すために、それまでに目立った手法を使用するのは控えるということですか。

伊藤 そういうことですね。

−− 試合以外のところではいかがですか。

伊藤 なるべくレイアウトを簡単にしようと思っていました。かなり描くのが難しいキャラなので、あまり動かさなくていいように。歩くのもスライド、望遠で行くような感じで。複雑なことはしていないです。

−− 最小の労力で効果的に見えるようにされている?

伊藤 そういうふうに作っているつもりです。

−− 自分が個人的にこの話数で最も印象に残ったのは、やはりラストシーンなんですが。新がかるたをやっていないという、信じられない一言が胸に迫ります。

伊藤 原作に流れがあるんですけど、これは構造的には自分が担当した『あの花(あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない)』の7話と一緒なんですね【注5】

−− ああ。あの話数はネットなどでも話題になりましたね。ラストに信じられない一言が、というところは同じですね。

伊藤 そこにいたるまでの主人公たちの感情を高めていく、ということですね。どちらかというと「楽しい」方向に高め切ったところで、いきなり落とす。それがドラマになる。そのために、そこまでの積み重ねがあるんです。

−− ここはかなりカットを積んでいるじゃないですか。新が電話を取るまでにドキドキしてしまいますね。

伊藤 それまで電話掛けられないわけだから、やっぱり待つ時間が(演出として)欲しいわけじゃないですか。だからコールがあって、新が取るまでに、あそこは時間を掛けないといけないんですよ。かるたシーンもこのシーンも「ここだ」というカットそのものじゃなく、そこに至るまでにどう設計したかが重要になってくる、そう思いながら描いていったつもりです。

新が電話に出るのを待つ千早。彼女が焦れていく気持ちが伝わってくる演出になっている。
新が電話に出るのを待つ千早。
彼女が焦れていく気持ちが伝わってくる演出になっている。

 

注1.中無し
一連の動作の中であえて動画を抜き、キャラクターの動きの間を飛ばすこと。今回のような使い方の場合、キャラクターが勢いよく寄ってくるような効果が出て、少しコミカルさが増す。

注2.自分は荒木組だった
伊藤智彦は、荒木哲郎(監督作に『ギルティクラウン』『学園黙示録HIGHSCHOOL OF THE DEAD』など)が監督した『デスノート』の監督助手であった。

注3.トリプルアクション
同じ動作がカメラポジションを変えて三回、テンポよく展開する。故出崎統監督の、テンポよく三回パンして迫力を出す「三回パン」などに連なる系譜の演出法である。

注4.『世紀末オカルト学院』1話
伊藤智彦が監督を務めた『世紀末オカルト学院』の1話。主人公マヤが、飛び掛ってくる学長めがけてパイプ椅子で殴りつける際、この手法が使われている。本カットがマヤの最初のアクションであり、強烈なインパクトを残した。

注5.『あの花』の7話
『あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない』は、フジテレビのノイタミナ枠で放送されたTVアニメーション。伊藤智彦が絵コンテ、演出を担当した7話では、とある人物がラストカットで思いがけない一言を言い放ち話題となった。

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