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荒木哲郎の夢と26人の刺客
■刺客その5 『 ツネマツくん 』

皆さんこんにちは。
今日お話する夢は「ツネマツくん」にまつわるシュール夢です。
かれはマッドの制作出身で現在フリーの演出家。「マングローブ」「ユーフォーテーブル」「ボンズ」といった会社で、主に演出処理で活躍しています。自分とは前述のヒラオくんらと共通の友達であり、「デスノート」を始め、私もよく仕事も手伝って貰っているのです。

あの夢の舞台は高校時代。放課後の教室に居残っている男子生徒二人。その二人こそ、私とツネマツくんに他ならないのでした…。

先に断っておきますと、彼とはマッドに入って知り合ったのであって、それまで何らの面識はありません。しかし夢の中の設定では高校の同級生でした。まあ夢ってそういうものです。

さて私と彼はなんかダルーと漫画読んだり、落書きしたりしています。帰ってもいいんだけど、暇だし、もうちょっと時間潰してくか、みたいな感じです。うーん書きながら羨ましくなってきた。いいなあそういう時間。そういうの今の俺にくれよ。

…まあそんな時、ツネマツくんがおもむろに口を開きました。
「荒木先生は机のタイプの好みないの」

「?」となる私。荒木先生という物言いは、まあ普段の彼も時々やりますが、質問内容が不明です。どうやら彼が聞いているのは、学校の机に対して、形やら色に好みはないのか、ということらしいですが、正直、私にはそんな机の好みなんてありません。ていうか、まあよく見りゃちょっとパイプの位置関係が違うやつとか、板の部分が薄いやつとかあるけど、結局机なんてみんな一緒じゃん、と思っていました。

しかし彼の聞き方は「当然あるよね、好みくらい」という雰囲気でしたので、ここで「ない」と答えるのは恥ずかしいというか、まるで「当てがわれたものを何の疑問もなく受け入れる、こだわりのない男」と思われるようで悔しいので、私は何とかして「それなりのこだわり」を演出する必要に駆られました。そうして私が答えたのが次のような内容です。

「机のタイプの違いは、俺はそんなに気にならない。でも、板の部分のキズのあるなしは、板書の精度に影響してくるから、いつも気にしてる」
とまあそんな感じでした。どうよ。少なくともノートにこだわってるしね。見事に「一味違う男」を演じることができた…。そう悦に入る私に、次にツネマツくんが言ったのは、さらに意外な言葉でした。

「えっでも左上塗りつぶすとき、Aタイプのが良くない?」

私は息を飲みました。彼の言っていることがわからない…。何だろう。AタイプとかBタイプとかあんのか?それってどう違うの?そして何より「左上塗りつぶすとき」って何?なにを塗りつぶすの?
…そんなことを思って呆然としている私を見てツネマツくんも、「ちょっとわかりづらかったかな」みたいに思ったらしく、こう足してきました。

「紙ぬりつぶす時って、左ヒジと紙の余白を埋める感じにやるでしょ」

やるでしょって言われてもという感じです。たぶん絵にすると↓こういう感じなんだと思いますが、

こういう風に紙を塗りつぶしたこともないし、第一あまり紙を塗りつぶしたいと思ったこともないのです。だから「それ前提」での机の好みの議論など、不毛というか、そもそも何でそんな話を「当然のように」吹っかけてくるんだよ、と私に怒りがこみあげます。

「(心の声)うざったいなあ、このこだわり人間が。どうせ俺にはこだわりなんてねえよ。なんでも当てがわれるままにだよ。奴隷だよ。悪いか」
そんな気持ちが高まって、彼にこう言ってしまいました。

「…知らねえよ…」

彼は私を見つめ固まり、夕方の教室に、寒々しい風が吹いたのでした…。

刺客データ5:ツネマツくん

刺客データ5:ツネマツくん

現実世界でツネマツくんがこんなことを言った事実などないのですが、彼は性格的に「他のひとに無いこだわり」を感じさせる男なので、私はこの夢になんとなく「彼らしいもの」を感じています。夢の中とはいえ、冷たくして悪かったです。そんな彼はいろんな人に好かれているので、フト気がつくと、ひょっこりと有名監督の作品のスタッフとして活躍していたり、かと思うと私のような駄友達の手伝いをしてくれたり、フットワークが軽いというか、仕事選ばないというか、とにかく有難いひとです。そうだ、あとデスノートの夜神月くんの文字は彼です。1話の演出をやってもらっていたという背景もありますが、ライトくんの「引き出しに仕掛け」の繊細さとか、余人には無いこだわりといった点で、何となく皆が納得するだけの共通性が彼にはあったのです。僕のこの絵じゃわかんないと思いますから、いちど会ってみることをオススメしますよ。

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