−− さっそくですが、監督。第一首というとシリーズのなかでも作品の印象が決定づけられる重要な回だと思うのですが、「ここに力を入れたぞ!」というカットがあれば、教えていただけますでしょうか。
浅香 そうですね。アニメ版は原作と構成が違っていて、高校生編から始まるんですよね。そこから小学生編へと移るということで、その時間の飛ばし方を一工夫してみました。ここが第一首では個人的にいちばん気に入っているところです。
−− 電車の中で太一と千早が話していて、そのあと回想になるんですよね。
浅香 電車の中で高校生の千早が小学校の頃を思い出していたら、その電車が通った先に小学生の千早がいた、というかたちにしています。その切り替わりのところですね。
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浅香監督がお気に入りの回想に入るシーン。
シームレスに時間が転換し、視聴者が少し驚くような仕掛けになっている。 |
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−− 確かに、ちょっとトリッキーですよね。一般的なアニメの演出だと、W.I(White In 白い画面になり、通常の画に戻っていく)とかO.L(Overlap 前の画に後の画が一部重なり、段々と後の画が見えてくる)といったいかにも「回想に入りますよ」というのが分かる演出にすると思うのですが……。
浅香 はい。ただ、今回は1話で回想に入って4話で回想に戻るということで、回想に入っている間が長いんですよ。そうすると回想に入っていること自体を視聴者が忘れてしまうかもしれない。なので、(回想の)最初と最後のところを印象的にしたかったんです。1話でちゃんと回想に入ったことを印象づけて、4話で戻る、ということで引っかかりを持たせたかったんです。
−− なるほど。確かに他作品ではあまり見ない手法です。
浅香 実際、自分もあまりやったことがなかったですし(笑)。
−− 第四首も桜の花びらが電車の中に落ちてきて、回想が終了するという印象的なシーンになっていますね。
浅香 打ち合わせの時、第四首のコンテを担当された伊藤(智彦)さんに、第一首に併せて桜と電車を使って印象的にしてほしいということは伝えました。そうしたら、とてもいいかたちでコンテを仕上げてくださったんです。
−− なるほど。今のお話はいぶし銀的に工夫された部分ですよね。他に「ここは!」 というところはありますか?
浅香 わかりやすい所で言うと、やっぱり新との勝負ですね。
−− あそこは見せ所ですよね。
浅香 「カルタって地味だな」というのが、知らない人の第一印象である場合が多いと思うんですよ。でも実は違っていて、本当はスポーツといっていいぐらいの競技なんです。一瞬の世界なんですね。
−− 実際に競技しているところを見ると、手の動きが早すぎて、何をやっているのか分からないぐらいですよね。
浅香 だからカッコいいアクションをきちんとここで見せないと、この作品は成功しないんです。視聴者の「たかがカルタ」という気持ちを大きく裏切らないといけない。力を入れましたね。
−− ここは新の見せ所でもありますね。
浅香 普段いじめられている新が、その瞬間見せるアクション……。千早と同じように視聴者も魅了されることで、新の存在感が視聴者の中でも立ってくるんです。
−− ギャップ萌えですね!
浅香 え。ええ…まあ。そうですね。
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新が最初にカルタを取るシーン。
実際の各カットの尺はコンテで記載されている以上に短い。
原画担当は第五首の作画監督でもある大舘康二さん。 |
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−− ええと……ここに(カット269)ノーマルからスローへと指示があって、カット270でノーマルスピードにまた戻っていますね。一瞬スローになって(カルタを)払った所でまた元に戻る、という演出ですか。
浅香 そうです。ここでは、新が一枚だけをその瞬間に正確に取るということを表現したくて、こういう演出法を採りました。新のポテンシャルの高さを表現し、同時にアクションの繋ぎとしてもカッコよく見えるようにしてみたんです。 カルタを取る一瞬は、本当に0コンマ何秒なのでスローモーションを使っています。
−− このシーンが始まって、6カットぐらい (CUT266〜272 )積んでますね。これはひとつのアクションとしては割と多めですか。
浅香 多いですね。 「カットも多いし実際のカルタの動作より尺も長いけど、速い動きを表現する」ということを目指しました。ただ、カルタを取る時に、シリーズ通して全てこういう演出になるかというとそういうわけではありません。 カルタって、試合では一瞬でババッと事が済んでしまったりすることも多いので、一瞬の表現より、スピード感を重視するようなところもあると思います。その話数毎の状況や心情によって、カルタでのアクションは変わってくると思いますのでぜひ期待しててほしいですね。
−− なるほど。今後注目のポイントですね。今日はありがとうございました! |