−− 今回は第三首「ふれるしらゆき」について、浅香監督に再びお伺いできればと思います。
浅香 よろしくお願いします。
−− 第三首はクレジット上、共同絵コンテとなっていますが……。
浅香 Aパートが伊藤(尚往)さん、Bパートが自分という区分けですね。
−− かるた勝負は主にAパートですよね。
浅香 Aパートでいうと、普段おとなしく見えてた新が、こと勝負になると人が変わる……というところが、面白いのではないかと。ここはシナリオと伊藤さんの匙加減で良い感じになりました。原田先生も、石塚運昇さんの演技含めて楽しいキャラクターに仕上がりましたね。
−− では担当であるBパートでいうと、どのあたりに力を入れられましたか。
浅香 まず、小学生編は3本でまとめないといけないという前提があったんです。1話は新のインパクトを見せるというところを中心に尺を自由に使ったのですが、今回はその分、逆に要素を詰め込む必要がありました。だからこそ、いかに3人の時間経過や関係性を濃密に見せつつ、時間内に収めるかというのが勝負どころでした。
−− 試合だけでも3試合ありますよね。これだけ綺麗にまとめるのは、かなり難しかったのでは?
浅香 第一首の新がかるたを取るカットの時にもお話しましたが、要は時間の引き伸ばし方なんです。三首では頭から終わりまででかなり時間が経過するので、どう圧縮するかべきか……卒業式のあとに家に戻るカットなどは具体的に工夫したところです。
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卒業式で皆を残して歩く新。
先行して母親の声が聞こえつつ、歩きそのものは継続しながら、
オーバーラップを挟んでいつのまにか新の家に移動している。
時間の経過を圧縮しつつ、叙情感も感じさせる演出となっている。 |
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浅香 と同時に、一番見せたい部分は丁寧に描かないといけない。そこまではなるべく圧縮した感じで描き、最終的な見せ場へと到達するというのが狙いでした。
−− その見せ所というのはどこでしょう。
浅香 今回、最も重要だと考えていたのは「3人の関係」ですので、やはり卒業式の後、かるたを3人で行うところですね。
−− (頷いて)良いシーンですよね。
浅香 ここで明確に意識していたのは、対比です。かるたの試合でみんなが戦ったあと、千早が泣きますよね。
−− ええ。あそこもグッと来るところでしたね。
浅香 このシーンでは、千早は泣いているんですが、新は笑っているんです。
−− 「なんで泣くんや?」って新が言って、ちょっと微笑みますね。
浅香 で、最後のシーンでは新が泣いて、千早が笑うんですよ。
−− ああ……ああ! そうですね!
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夕焼けの土手の中、泣く千早と微笑む新。 |
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一方カルタを取るシーンでは、新が泣き、千早が笑っている。 |
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浅香 どっちのシーンでも、みんなの気持ちはひとつなんです。「かるたをずっとやっていたい」、「みんな仲間でずっと一緒に」。けど、表情は違う。これは、かるたに関しては新が少し先に行っているんだけど、みんな仲間になったという感情は千早が一歩先を行っている、ということなんです。
−− そういえば、高校生になって千早は学校内で仲間集めに奔走し、新はかるたに対して迷いをみせています。千早は仲間に、新はかるたに、という構造は同じですね。
浅香 原作でもそうなっているので、(原作者の)末次先生もこの両シーンは対比させようとしていたのだと思います。それを大切にして、より鮮明にするようと心がけました。
−− 自分もこのシーンは「千早らしいなとか、新らしいな」、とついつい見入ってしまいました! |