―― 伊藤さんは、第5話の絵コンテを担当されてます。いきなりですが、絵コンテの中で最も 力を入れたカットはどれですか?
伊藤 電車の中の描写です。
―― 電車の中?
伊藤 5話の前半はとにかく電車のシーンがほとんどです。これは実際に行ってみないとわからないな、と思ってロケハンに行きました。個人旅行も兼ねて福井県のあわらという温泉地です。
―― 収穫はありましたか?
伊藤 まず、電車の乗り継ぎなどのディテールを細かく描けたことです。原作のモデルになった桜並木もあったんですけど、開花の一週間前で、残念ながら枝振りしか確認できませんでした(苦笑)。でも、収穫は、一面の田んぼです! これにはいきさつがあります。
―― いきさつ?
伊藤 JR芦原温泉駅って、温泉街から凄く離れているんですよ。それを知らずにとにかく歩きだしてしまったのですね。行けども行けども、到着しないんです(笑)。でも、そのおかげでいきいきとした田園風景を撮影することができました。それと、新との別れのシーンは、そのあたりにモデルの場所があるらしいと聞いていたので、原作と同じような写真を撮ることもできました。
―― 別れのシーンは本当に美しかったです。それで、電車の中はどうなのですか?
伊藤 できるだけ窓の外を見せないようなアングルを工夫しました。
―― なるほど。流れていく外の景色を描かなくてすむように、省力化を図っているんですね。
伊藤 はい。いかんせんカットも多く、多くの方にレイアウトを描いていただかないといけないので、最初から省力化のガイドラインを作っておいたんです。
―― では、そのカットを見てみましょう!
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電車の中、千早と太一の会話では、
できるだけ窓の外が見えないアングルを選んでいる。 |
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伊藤 新の家もアングルに気を遣いました。和室っていうのは、本当はあまり斜めアングルで撮らない方がいいんですよね。格子に垂直や四角を使ったりして、綺麗に見せているので。フラットなアングルの方が、美しい日本家屋を見せられるんです。
―― でも、今回はかなり斜めのアングルの印象があるのですが。
伊藤 はい。そこが気を遣ったポイントです。今回は迫力と狭い空間感、それとキャラクターの表情をきちんと見せることが必要なカットだったので、あえてセオリー的な表現を外しました。新との緊張感あるやりとりを演出することができたと思います。
―― 確かに、得も言われぬ緊迫感があったと思います。
伊藤 もう一工夫というところで、暗い部屋と明るい部屋をわざと意図的に分けたりもしています。これも同じく緊迫感を出すために、自分が設計したところなんです。
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斜めアングルの多様により、緊迫感を演出する。
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CUT181。明るい部屋から暗い部屋へ入ることを示すため、
影が効果的に使われている。 |
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伊藤尚往 プロフィール
竜の子アニメ技術研究所に入社。その後東映アニメーションへ。原画マンとして活躍し、後に演出家として『おジャ魔女どれみ』シリーズや『ワンピース』など様々な作品に携わる。監督作としては『Kanon』(東映版)、『イリヤの空、UFOの夏』。マッドハウスでも『キャシャーンSins』などに参加している。
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