―― いつもであれば、いきなり「力を入れたシーン」の話から入るのですが、今回は参加の経緯からお聞かせください。川尻さんと言えば、アクション監督の大家というイメージだったので、『ちはやふる』への参加には本当にびっくりしました。
川尻 うん。読んでみたら、これが凄く面白くって。だってこの歳の自分が感動してしまうんですよ。特に素晴らしいのはキャラクターです。仲間同士でみんな欠陥もあるし、得意なところもある。ひとことで言うと、みんな活き活きしていてリアルなんです。
―― お気に入りの作品になってしまったんですね。
川尻 だから制作前から「これは本当に大事に作ったほうがいいぞ!」って言ってたんですよ(笑)。
―― それではあらためて、川尻さんが絵コンテを担当された8話で「ここに力を入れた」というシーンはありますか?
川尻 肉まんくんが「かるたをやりたい」と言うところですね。
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それまでのドライな描写から一転、
肉まんくん(西田優征)が自分の素直な気持ちを打ち明ける。 |
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―― 肉まんくんが自分の本当の気持ちに気がつく、いいシーンですね。
川尻 ええ。ここでのポイントは、第三者から言われないと肉まんくん自身、自分の気持ちに気がつけなかったということですね。
―― 確かに、このシーンまで肉まんくんの「かるたに対する想い」は、揺れ動いているように見えました。
川尻 よくあるじゃないですか。「お前あの子のこと好きなんだろ?」って言われて、初めて「ああ、あの子が好きなんだ」と気がつくような。そういうことなんですよ。これがさっきもお話した『ちはやふる』らしい、キャラクターのリアルさだと思うんですよね。
―― このシーンに関連して演出的に気をつけられた部分はありますか?
川尻 「かるたをやりたい」という肉まんくんの強い気持ちを活かすために、このシーン以前の彼を徹底的に「ドライ」に描いていきました。
―― ドライ、ですか。
川尻 この回は肉まんくんの紹介回なので、彼がどんなキャラクターなのか、視聴者に分かってもらわないといけないんです。彼は本質的に凄くシャイな人間で。
―― このあとの話数でも、そういう描写がそこかしこに出てきますね。
川尻 ええ。シャイであることが他人に対する気恥ずかしさに繋がって、「ドライ」という極端な態度として表れる。だからこそ、「かるたをやりたい」っていう、彼の素直な気持ちがその殻を破って吐露されると、話がぐっと引き立つし、絶対に視聴者にも想いが伝わるだろうと思ったんですよね。 |