SPECIAL
BACK
シリーズ構成 古怒田健志氏インタビュー
古怒田健志『ダイヤのA』インタビュー

―― 原作は大変人気のある作品ですが、アニメ化するにあたって心がけた点はありますか。

古怒田 原作を読み間違えないようにするということだけですね。

―― 「読み間違える」というのは、原作者の寺嶋(裕二)先生の、意図に沿わない形にならないようにということですか。

古怒田 そうですね。

―― 脚本の1話を拝見させていただいたのですが、例えば原作にはない硬球の話をしたりするじゃないですか。あるいは1話のラストシーンに原作では登場しない先輩達が、沢村を見ているといった部分もありますよね。これはどういった経緯で?

古怒田 その辺りは、寺嶋先生と意見交換しながらやっています。硬球の硬さは、自分の方から「やりたいんですけどどうですか」という打診をしました。そうしたら、寺嶋先生が「ああ、それは是非入れてください」と言っていただきまして。最後にいずれ青道高校で沢村の先輩になる選手達が見ている部分は、逆に寺嶋先生から提案いただいたんです。原作を読んでいる人たちは、早く出てこないかなと思っているはずなので(笑)。

―― これは嬉しいファンサービスですね。

古怒田 原作でも実際はあの時点ですでに彼らはいるはずなので、入れていきましょうということになりました。先生には最初からガンガン参加していただいています。

―― では寺嶋先生が「今考えるとあの時原作でもやっておけばよかった」といったことは、今後入ってくるかもしれないのですか?

古怒田 そうですね。いくつかの部分に関しては、そういうところもあるかと思います。

―― 寺嶋先生と共に新たに作り上げていくという部分もあるんですね。楽しみです。魅力的なキャラクターの多い作品ですが、キャラクターを立たせるために工夫されているところはありますか。

古怒田 そのキャラクターの魅力的な面を描き漏らさないようにすることですね。原作で存在するシーンは基本的に入れて、魅力的なシーンをお話の見せ場にもってくるんです。

―― なるほど。例えば盛り上げどころをラストに持ってくるために本編を省略したりといった工夫はされているんでしょうか。

古怒田 元々はそういった話もあったんですが、最終的には必ずしもそうじゃなくていいという流れに変わりましたね。なので、映像にする上で、省略したりといったことを、できるだけしていないようにしています。

―― なぜ省略しない方向性を選ばれたのですか?

古怒田 野球ならではの心情の盛り上がり、というのが存在するんですよ。普段僕らが書いているアニメの方法論でいうと、「これはなくてもいいのでは?」と思うところもあるんです。でもそれはフォローしていこうよと。原作に描かれている、野球ならではの考え方、思いは入れ込んでいきたいという方向性です。そのあたりを拾っていくと省略するところがなくなっていくんですね。

―― では、増原監督と脚本においてやりとりされる時に、増原監督からの注文としてはそのあたりの指示が多いのでしょうか。

古怒田 そうですね。心情面での注文が多いです。ここは気持ちの盛り上がるところだから、盛り上げてほしいとか。キャラクターの心情をきちんと書いて下さいという部分が多いですね。

―― 確かに『こばと。』などを見ていると、増原監督といえばドラマの人、というイメージがありますね。

古怒田 ドラマをきちんと描きたいという思いを強く持っていらっしゃる方ですね。それは僕も全く同じ気持ちです。

―― ところで、古怒田さんは草野球をやられているということで、先日私も試合を拝見させていただきましたが、野球歴はどのくらいになるんでしょうか。

古怒田 実は、以前は観るほうが専門だったんですよ。学生時代にプレイした経験は全くないんです。もともと運動が得意なタイプではなく、なかなかチーム参加するのも勇気が出なくて。でも、30を過ぎてから、同じ作品に参加していた脚本家の西園悟さんに、「野球好きなんだったらやってみない?」って誘われたんです。アニメ関係者が数多く参加している、アニメリーグという草野球のリーグで、脚本家が集まっているライターズっていうチームがあるんですが、そこに入れていただいてから、草野球をやりはじめました。今13年目くらいです。

―― 凄いですね。ご自身野球経験者だったことは、脚本に挑むにあたって活かされましたか?

古怒田 チームでずっとキャッチャーをやっているので、自分の身体を動かして実感してきた部分で、原作漫画のエピソードに共感できるというのは大きいと思います。……実は少し今の話から外れてしまうんですが、僕、高校が早稲田実業っていう野球が強いところだったんです。しかも、荒木大輔という甲子園の大スターがいて。彼はその後プロ野球のヤクルトに入って活躍し、今シーズンまでヤクルトのコーチをしていたんですが、その人が同窓生なんですよ。

―― ええ!

古怒田 荒木大輔がいる時って、彼が一年生の時にピッチャーで出て、凄い活躍ぶりで。それこそハンカチ王子なんてものじゃないほどの大ブームが起きて。荒木大輔なんで、大ちゃんフィーバーって言ってたんですけど。でも、その時は愛甲猛を擁する横浜高校に決勝戦で負けるんです。

―― そうですか……。

古怒田 僕は当時ブラスバンドに入っていて、実際に試合に行ってその時の応援をしていたんですよね。だから甲子園に行く野球部の雰囲気、学校の雰囲気は肌で味わっているので『ダイヤのA』にあたっては、そっちのほうが参考になっていますね。『ダイヤのA』中で野球部の連中が、学校の生徒達から「ガンバレよ、野球部」と言われるシーンがあるんですが、そういうところは実感が持てるところなんですよ。悔しさもね、多分……。

―― ああ、そうですね。早稲田実業の決勝の結果は、負けてしまったわけですものね…。話は少し変わりますが、原作は読まれてみていかがでしたか?

古怒田 高校野球だと「ドカベン」が僕らの世代では人気でしたが、それに比べてさらにリアルですよね。実際の高校球児が考えていることや、彼らの内面にドラマが行っていて。「ドカベン」だと試合の展開の中で、勝つためのアイデア勝負みたいなところがあるじゃないですか。それは奇想天外だったりもするんですけど、『ダイヤ』は地に足がついた、高校生を描こうとしている漫画だという印象は受けました。

―― 『ドカベン』に比べても、リアルなキャラクターですよね。同じトリックプレイヤーでも、春市と殿馬では大分違いますよね。

古怒田 くるくる回転しないですからね(笑)。「巨人の星」があって、「ドカベン」が出てきて、そこから更に時間が経つと、野球漫画はリアリティを重視してこのかたちになった、ということでしょうね。それは、日本人の野球に対する理解の変化とも繋がっていると思うんですよ。

―― それは大きな話ですね……。どういうことですか?

古怒田 僕らが子どもの頃は「巨人にあらずば野球にあらず」というところがあったんです。見る側の意識からすると、あの当時のプロ野球は、巨人だけが特別枠のヒーローものだったと思うんですよね。巨人というウルトラマンがいて、それが、中日、阪神、大洋といった怪獣共を倒す、ちょっと勧善懲悪じみたフィクションの世界。それを観るのが楽しい、と。

―― なるほど。

古怒田 それが、だんだん正統なスポーツへと変節していく。どっちが勝っても負けてもいいと開かれていったのだと思います。高校野球にはそういった歪みはなかったと思いますが、漫画の世界では、やはり主人公は超人だし、そのチームが勝つことが宿命づけられていた。しかし、スポーツの見方が浸透していく中で、漫画も変わってきたのかなと思うんです。そういう意味で「ダイヤのA」という作品は「ここまで来たんだ」という感慨がありますね。超人でなくてもいい。主人公も負ける時は負ける。

―― そうですよね。なかなかないですよね。

古怒田 スポーツというのは、勝ち負けだけじゃなくて、その過程を観る楽しさみたいなものを与えてくれるんです。結果じゃなくて、一球に込められた想いが大事。僕はそっちの方が観客として豊かな見方ができると思いますね。

―― それでは、本作に臨むにあたって、最後に一言いただけますでしょうか。

古怒田 私事になりますが、今、我が家には男の子が三人いるんですよ。大学生、中学生と小学校4年生で、上の二人は全く野球に興味なかったんですけど、三男坊だけが、なぜか突然野球に目覚めたんです。

―― おお!

古怒田 今もう『ダイヤのA』を夢中になって読んでいて。毎週、マガジンを送っていただいているんですけど、自分は脚本を書いているところで精一杯で。でも、うちの息子は毎週マガジンに齧りつくように何回も見てね。「今週凄いんだよ、お父さん読んだ?」って言われるんですよ。

―― (笑)。

古怒田 本当は、お父さんも読んでおかないといけないんですけど(笑)。リアル野球少年が家にいるんで、こいつが喜ぶようなものにしたいなって。それで、AT-Xのプロデューサーである山田(昇)さんがおっしゃったんですが「野球が好きになってほしい。子供にも見て欲しい。その子どもたちが、野球をやりたいと思って欲しい」というのが、僕らの目標にもなったんです。

―― いいですね。

古怒田 で、もしその子どもたちがやる気になってチームを作ったりしたら、ぜひ我がライターズと対戦しましょう! その時を楽しみにしています!

古怒田健志インタビュー
古怒田健志プロフィール

脚本家。アニメだけでなく、特撮作品にも多数関わる。シリーズ構成としての代表作に『図書館戦争』、『ブラッドラッド』など。各話の脚本としては『TEXNOLIZE』、『ギャラクシーエンジェル』、『牙-KIBA-』といったマッドハウス作品にも数多く携わっている。
ページの先頭へ戻る