先日行った『ハンター×ハンター』ゴン役、潘めぐみさんのマッドハウスリアルツアーに引き続き、今回はキルア役、伊瀬茉莉也さんにインタビューを行いました。本インタビューは2回に分けてお送りします。
伊瀬さんが『ハンター×ハンター』に掛ける想いとは……お楽しみください!
―― 今日はマッドハウスのホームページのインタビューになります。よろしくお願いします。
伊瀬 よろしくお願いします。私は昔からアニメっ子だったので(笑)、アニメを見続けてきましたけど、リアルだなとか、アクションが活きているなとか、画作りが綺麗だなと思えるのはマッドハウスさんの作品が多かった気がします。作品作りに対して力を入れている会社というイメージがあります。
―― 恐縮です(笑)。具体的にマッドハウス作品で好きなタイトルはありますか?
伊瀬 私、今 敏監督の作品が大好きなんです。『東京ゴッドファーザーズ』、『千年女優』……『パーフェクトブルー』もマッドハウスさんですよね?
―― そうです。
伊瀬 『パーフェクトブルー』は、擦り切れるくらい見てます(笑)。
―― ありがとうございます! では、『ハンター』の話に移りたいと思います。元々原作の大ファンだったとお聞きしています。伊瀬さんから見た原作の魅力はどんなところにありますか。
伊瀬 言語化するのが難しい……言葉にしきれないぐらい多様な魅力が『ハンター』にはあると思うのですが。あえて言うなら、読む人の人生観を変えてくれるような。
―― 深いですね。どういった部分にそれを感じますか?
伊瀬 ゴンとキルアの生い立ちからもそれを感じますね。ゴンは家庭環境こそ色々あるけど、くじら島っていう自然豊かな場所で生まれ育って、今ある全てに感謝できる心を持っている。彼本来の持っている人間性があるじゃないですか。一方でキルアは、同じ男の子として生まれたんだけど、たまたま家が暗殺家業で、12歳らしい遊びや、友だちが欲しいと思っていても、周りから固められて(人間性を)作り上げられてしまっている。
―― そうですね。
伊瀬 ゴンとキルアは同じ12歳の男の子だけど、こうも違う人生を生きている。対比として描かれていますよね。それは現実の人たちにも言えることなんじゃないかな。みんな同じ人間なのに性格は違っていて、好きな服も食べ物も違う。でもみんな懸命に生きていて、何かを模索して生きている。そういう人生観が、『ハンター』を読んでいて、垣間見える時があるんです。そこに共感したり自分を投影したりして、憧れの(なりたい)自分みたいなものを見つけていく。そんなことを考えさせてくれるマンガだと思っています。
―― 特に思春期の子たちが感情移入できるのは、キルアなのかなと思うのですが。そんなキルアの魅力を、演じている伊瀬さんの目から見て教えていただけますか。
伊瀬 私も中学生の時に貪りつくように「ハンター」を読んでいて(笑)。やっぱり一番惹かれたキャラクターなんです。もちろんゴンも大好きなキャラクターですが、キルアの抱えている闇みたいなものが魅力的に思えました。
―― そういうところはありますね。
伊瀬 それと……精神的にゴンに頼っているところ(笑)。
―― 一見、ゴンがキルアに頼っているようにも見えますが……。
伊瀬 いや、ゴンは「単純バカ」みたいに言われているけど、むしろ精神的には大人だなって思うんです。戦いの場面では、経験値のあるキルアがバッと前に出てゴンを守るけど、キルアの方がゴンの考え方や精神面に引っ張ってもらっている。そんな頼ってしまう脆くて弱いところが魅力かな。
―― 弱い部分が魅力なんですか(笑)。
伊瀬 いや、人としての弱さを持っているところが魅力なんです(笑)。自分の弱さをちゃんと知っているから、強くなれる面もあるじゃないですか。
―― 2013年12月に公開された『劇場版HUNTER×HUNTER〜緋色の幻影〜』でもキルアがクローズアップされますが、キルアの行動で、伊瀬さんが共感するところはありましたか。
伊瀬 逃げちゃうとこ(笑)。
一同 (爆笑)。
伊瀬 人形イルミが現れたところで、ゴンを置いて逃げてしまうところです。まあ、キルアも今後明かされる事情はあるにしても、発作的に逃げてしまうんですよね。「勝ち目のない相手とは戦うな」って幼少の頃から叩きこまれた言葉が、彼の胸の中に残り続けている。ゴンはそこで「たとえ勝ち目がなくても戦ってみなきゃ分からないじゃないか」って、立ち向かっていくじゃないですか。
―― はい。
伊瀬 でも彼は、とっさに引くんですよね。それが自分と重なるんです。私も中学生の時、数学が大嫌いで。でも、ある時、数学を担当されていた先生に呼び出されて「伊瀬、苦手なものから逃げていると、いつか壁にぶちあたるぞ。絶対に逃げきれなくなる」と言われたんです。数学だけじゃなくて、人生で逃げ腰になると。
―― なるほど。
伊瀬 トンカチでカーンと打たれたような衝撃があって。キルアは当時の自分に似ていますけど、私は立ち向かう勇気がいかに大切か、素晴らしいかってことをその時に教えてもらった気がします。
―― 分かりました。そんなキルアを演じていて、気をつけていることはありますか。
伊瀬 放送が始まった当初は、男の子を演じるということが初めてだったんですよ。
―― ああ、そうなんですね。
伊瀬 なので声のトーンや、言い回し。「だぜ」「だぞ」といった語尾に当時は気をつけていました。それと、私と原作ファンの方々が抱いているキルア像に、どこまですり寄せられるか考えた時期があって。
―― それはどんなものですか?
伊瀬 外枠を作ることに囚われていたんです。だけど、ストーリーが進んでいくにしたがって、キルアも氷みたいに尖っていた部分が溶けて丸くなっていった。本編内で仲間たちと気持ちが通い合っていくと、自然とキャスト内にも絆ができてくるんです。
―― 本編内でキルアが仲間とともに変化していったように、 伊瀬さんとキャスト(声優)の関係も変わっていったと。
伊瀬 その時に初めて外枠に囚われていたものが、一回「するん」と取れました。外枠ではなく、内面に気が行くようになったんです。そうすることで、私の演じるキルアが、ちゃんとキルアに見えるようになると思えるようになりました。
―― 気負わなくなったことで、キルアとの距離感が、凄く近づいたんですね。
伊瀬 その時から会話や、相手との関係性を意識するようになりました。ストーリーや話の内容に併せて、高揚しているのか、冷静なのか、落ちているのか、気持ち作りから芝居ができるようになりました。
―― では、キルアとの距離が近い今でも、演じる上で気をつけていることはありますか?
伊瀬 気をつけているという意味では、ちゃんとキルアのコンディションを私自身が整えてくるのが大事になっています。『ハンター』は続き物なので、前話からの気持ちの流れを引き継ぐのが難しいんです。アフレコって1週間ごとなんで、キャラクターがどういう気持ちをその週で抱いているのか、忘れかけることもあるんですよ。なので、来週に渡せるように、気持ちをばって投げておく……というか。
―― ばっと投げておく……。気持ちを忘れず、次の週でちゃんと受け取るということですよね。
伊瀬 ええ、そういうことは気をつけています(苦笑)。
―― 確かに、同じマッドハウス作品で演じていただいている『フォトカノ』の果音と、キルアだと役柄も大分違いますもんね。キルアを演じる時に果音の要素が混じってしまったら、妙なキャラクターになってしまいそうです。
伊瀬 それは大変ですよね(笑)。
第一回インタビューを終えて
今回のインタビューを終え、私は伊瀬さんから、役者としての自負のようなものを感じました。
伊瀬さんが大好きなキャラクターで、一番身近なところにいたつもりの、キルアという「他者」。
しかし、改めて役者としてアプローチをするとなると、大きな葛藤があったことが感じられます。
それを乗り越え、「他者」を「自分」の演技に昇華できたからこそ、伊瀬茉莉也=キルアとして、より深い芝居ができるようになっていったのだと思えました……。一役者としてのあるべき姿勢に感服です。
次回は、本当の『他者』でありながら、キャラクターとして最もキルアに近い存在であるゴンに対する想いを伺っていきます。その中で浮き彫りになってくる、人間・潘めぐみとの「奇妙な」在り方とは……?
お楽しみに!