前回に引き続き、伊瀬茉莉也さんのインタビュー第2弾をお届けいたします!
―― では、伊瀬さんが『ハンター×ハンター』で演じているキルアについて、もう少し深く伺って行ければと思います。キルアを演じて得たものって、何かありますか。
伊瀬 いっぱいありますね。自分は昔『ハンター×ハンター』に助けてもらったんです。
―― 助けてくれた…というのは?
伊瀬 毎朝学校に行く前に『ハンター』のアニメを見ていたんですよね。中学生の思春期で、暗い気持ちになりがちな時に、この作品を見ることで楽しみを与えてもらいました。
―― 伊瀬さんにとって、『ハンター』は大事な作品だったんですね。
伊瀬 はい。本当にいち原作ファン、いちアニメファンとして、作品もキャラクターも大好きで。まさか自分がキルアの二代目の声をやらせて貰えるとは、夢にも思ってなかったんです。
―― 運命的なものを感じた?
伊瀬 おおげさかもしれないんですが……(苦笑)。キルアのオーディションを受けている時は、演じる人が私じゃなくてもいいと思っていたんですよ。キャラクターを大切に演じてくれる人なら、私じゃなくてもいいと思っていて。
―― 実際に、キルア役が決まってどう思いましたか?
伊瀬 そうですね……キルアの役が私のもとに来たということは、全部、私が背負えばいいんだと自然と思えるようになりました。そんな経緯もあったので、作品を、キャラクターを背負うことが、どれだけ大変で、どれだけ重いことかというのを、凄く学ばせてくれました。同時にその役、作品に入れるのは私だけだという素晴らしさも与えてくれたんです。その中で生まれてくる感情も、やっぱり巡り合わなきゃ得られなかっただろうし。
―― 生まれてくる感情? それはどんなものですか?
伊瀬 例えば、不思議なんですが、潘めぐみに対する感情は、キルアが抱くゴンへの感情そのままなんですよね。私もグミ(潘めぐみ)が大好きで。でも、グミに対しては、「悔しい」とも思うんですよ。
―― ライバル意識もあるということですか。
伊瀬 自分は元々、自分は自分、あなたはあなたっていうスタンスがあるほうなんです。でも、彼女が持って生まれている、才能というものを肌で感じることがあるんです。ハンター試験の最終試験、会長のセリフを受けてキルアが「資質で俺がゴンに劣っている!?」と自問自答するところがあって。
―― ありますね。
伊瀬 私とグミの状況も、凄く似ていると思えました。自分は経験値でそこを補っているんです。でもいざ、彼女がピンチのときは身体を張って守るだろうし。彼女を攻撃する輩がいたら、ぶっ飛ばしちゃうだろうし(笑)。本当に似てるなって。先ほど言った嫉妬心やライバル心みたいなものも昇華されて、尊敬の念に変わるんですよね。「叶わないな」、「本当に凄いな」って。そういう心境を与えてくれた『ハンター×ハンター』にもキルアというキャラクターにも感謝しています。
―― そろそろ時間も迫ってきました…テレビでは今まさに「キメラアント編」が進行中ですが、今後の魅力を教えていただけますか。
伊瀬 そうですね。その前にG.I(グリードアイランド)編の話をしてもいいですか。
―― はい。
伊瀬 G.I編で冨樫先生が何を伝えたかったのかを考えると、単純にゲームをクリアする話じゃないと思うんです。カード集めがキーになっていますけど、あのカードは、カードであって、カードでないというか。
―― 謎かけのようですね。
伊瀬 あれは人生そのものを表しているんじゃないかと思っているんです。人って生きていくのにお金、権力、地位や名誉、そういうものを求めるじゃないですか。でも、そういうものを集めるのに必死になっているのは、人生を楽しめていないし、貶めているとも思います。お金が欲しいとか、権力が欲しいから、奪ってしまう。G.I編でもカード奪いが出てくるじゃないですか。
―― 確かに。G.I編でのカード奪いは、現実の地位や名誉を追う人たちの縮図ということですね。
伊瀬 はい。だけどゴンとキルアは不正な方法では手に入れないわけですよ。なぜならこれはゴンを強くするために、ジンが作った物だから。それにゴンとキルアが気付いた時に「親父が俺のためにこのゲームを作ってくれたのなら、ゲームを楽しめってことなんだ」と考えるんです。それはつまり、「人生を楽しめ」ということに繋がると思うんです。
―― G.I編のカード集めが人生を表しているのなら、そういうことになりますね。
伊瀬 楽しんでいるうちにカードも集まって、仲間も増えて、協力者が現れる。人生を楽しんだ人の元にはアイテムが揃ってくるようになっている。そして、自分で揃えた人じゃないと、最後のクイズに答えられない。
―― G.I編のラストで、島内全体のクイズ大会があってゴンが優勝するんですよね。
伊瀬 答えられたからこそ、ゲームがクリアできる……人生を楽しむことが大事だということを一貫して表していると思います。演じている時にも、本当に楽しかったんですよ。
―― 見ている方としても、ワクワク感は伝わってきました。
伊瀬 でも、キメラアント編に入った途端に、アフレコ現場の空気ががらっと重くなったのが分かったんです。新しいステージに入ったことを実感しました。そこで思ったんです。一個人の勝手な考えなんですが……、G.I編は人生の素晴らしさを説いているのなら、キメラアント編は人間の素晴らしさを説いているんじゃないかって。
―― 人間の素晴らしさ…ですか。
伊瀬 ええ。人間には学ぶ力があります。動物にはない学習する力ですね。キメラアントは成長して学習します。彼らは人間と同じ血が流れているので、彼らも学習する。
―― そういう設定ですね。
伊瀬 彼らは蟻であり、人間であるから、その狭間で揺れるんですね。自分は蟻なのか、人間なのか。そして、人間とはなんなのか。その上で蟻が最終的に何を選び取るのか。人間の中ですら、人間らしい心を失ってしまう人もいますよね。
―― 犯罪に手を染めてしまったり、人を殺めたり。
伊瀬 ええ。だから、蟻の選択を視聴者が受け止めるということは、我々現実の人間の心に問うていることと同じだと思うんです。あなたは、人間としての誇りをちゃんと持っているか? それを失わないのが大切なんだ、って。ひいては、人間がいかに素晴らしい生き物であるかということを表しているように思えます。
―― 人間以上に人間らしい蟻を通して見ることで、人間らしく生きようというメッセージを感じ取ることができる。やはり『ハンター×ハンター』は深いですね。では、そのキメラアントが本編中でどう変わっていくかというところを見所として、今回のインタビューを終えたいと思います。
伊瀬 はい。
―― が…実はもうひとつ……潘めぐみさんから、マッドハウス社内見学をしていただいた時の、キルアへのコメントがあるんです。「キルア! すっっっっっっっっっっっっごいよ!! 『ハンター×ハンター』、1コマ1コマ止めて見てみてよ!!」、というものなのですが。これに対して、キルアで返していただいてもいいですか。
伊瀬 分かりました。では……(キルアの声で)「ズッリぃー。俺だって見学したかったのに、お前だけ何抜け駆けしてんだよ! (読者に向かって)一コマ一コマ止めて、俺の格好いい瞬間、目に焼き付けて見てくれよな!」
―― おお! カッコいい…。ありがとうございました!
インタビューを終えて
今回はたくさん興味深いお話を伺うことができました。特にゴン×キルアと潘めぐみさん×伊瀬茉莉也さんの関係がシンクロしているというお話は、不思議なこともあるものだなという思いとともに、納得させられる説得力がありました。そうだとすれば今後のゴン×キルアと同様に、お二人の演技もさらなる成長が期待できる……と言えるかもしれません。ぜひ、これからの『ハンター×ハンター』にご注目いただければと思います!