第三章
空と白 -つめたい世界とやさしいディスボード-
●アニメくんによるチェック!
今回は空と白の部屋を見ていくことにする。1話Aパートの舞台となる場所で『ノーゲーム・ノーライフ』には珍しい「現実」だ。空と白がニートであるという設定に併せて、雑然としたそれらしい部屋になっている。いたるところにコードがあったり、ディスプレイがいくつも置かれていたりとゲーマーらしいディテールが満載だ。
●いしづかあつこ監督との問答
フウタ「この部屋は現実世界が舞台ですので、ディスボードと比べるとそれほど描くのに苦労されなかったのではないかと思うのですが……」
いしづか「実はこれはこれで悩みどころがあったんです。ファンタジー世界であるディスボードから手をつけてしまっていたので、現実世界をどこまで現実的にするかという線引が難しくて……。どうしてもエルキアの街のようなゴツゴツしたフォルムになりがちだったので、美術さんには今回は全部定規で描いてくださいとお願いしたんです。『冷たい』印象を与えたいと思って、参考としてこれを描きました」
フウタ「我々の現実に則したかたちにして欲しいということですね」
いしづか「それもそうなのですが、空と白にとっては冷たく無機質な世界だったはず、という面もあります」
フウタ「ああ、なるほど。空と白の心象風景でもあるのですか」
いしづか「はい。二人はエルキアに行って初めて充足感を得るので、このシーンではあたたかさを出してはいけなかったんです」
フウタ「登場人物の心理が背景によって表現されるというのは面白いですね」
いしづか「そのあたりは演出法として試行錯誤した部分でした。例えば、キャラクターの色についても心理状態を反映させていたりしています」
フウタ「それはどういうことですか? 緊迫した展開や哀愁漂う展開といった、シーンによって様々な色の空と白を用意したということでしょうか」
いしづか「いえ。実はそもそもキャラクターについている実線の色の彩度が違うんです。ディスボードに出て初めて実線が赤くなるんですよ」
フウタ「実線というのは、この場合分かりやすく言うとキャラクターの輪郭線のことですよね。なるほど……それは気が付きませんでした」
フウタ「すみません、少しイメージラフの話から逸れますが、もう少し今のお話について詳しく聞かせていただけますか?」
いしづか「分かりました。輪郭線が赤くなるのは空も白も同じですが、白の場合はディスボード世界に行った際、髪の色にグラデーションも入ります。現実世界だと白の髪の毛は輝いていませんし、実線も青暗いままなんです。寒色に塗っています」
フウタ「ディスボードの世界に行った時に、空と白が妙に活き活きして感じられたのですが、そういうことでしたか。しかし、実線に色が付く作品は稀にあるとはいえどちらかといえば珍しい手法ですよね」
いしづか「そもそもの話でいえば、今回は原作のカラーをできる限り再現したいということが念頭にあったんです。そのためにはどうすればいいのか――考えた挙句、実線を赤くするのがベストだと思いました」
フウタ「原作の色遣いも独特ですよね」
いしづか「鮮やかですよね。ファンの間では<榎宮塗り>と呼ばれていて、原作の大きな持ち味でもあるんですよ。ただ、高彩度の配色やグラデーションの多用といったところは、アニメで再現しづらい部分でして。なんとかその印象を再現しようと色々試行錯誤したんですが、実線を赤くするというところに行き着いたんです。色彩設計さんに<実線変えてもいいですか?>とお願いし、エスカレートして<シーンごとに変えてもいいですか?>とさらにお願いしました(笑)」
フウタ「シーンごとというのは先ほどおっしゃっていた、キャラクターの心理状態を反映させて輪郭線の色を変えるということですよね」
いしづか「はい。例えば10話で秋葉原のような街に空と白が出てきた時には、空と白が落ち込んで現実世界の色に戻してしまったりしています。応用としては、心理状態だけではなく、テトの空間に入った時など、イメージシーンに入ったことを分かりやすくするために、赤い実線を青くしたりといったこともしていますね」
フウタ「これは大変な労力のように思えます……」
いしづか「原作のイメージを踏襲しつつ、キャラクターの心象風景に寄せた結果としてこういう表現に落とし込んだつもりです。原作ファンの方には、パッと見の印象としてイメージそのままだと思っていただけたら嬉しいですね」