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おぎにゃんと学ぼう! アニメの作り方
■第3回 動画のお仕事あれやこれ(後編)

おぎにゃん
他にも、動画の作業で今と昔で変わった点はあるのかにゃ?

アニメ仙人
デジタル化が進んで、アニメーションの作業の仕方はだいぶ変わったけれど、中でも動画は激しく変化したのねん。

おぎにゃん
どう変わったのかにゃ?

吉松
動画というよりも、撮影で何でも簡単にできるようになったからだろうね。以前は動画マンは撮影できるように工夫して仕上げる必要があったけど、今はデジタル撮影(注1)に対応した描き方でいい。

おぎにゃん
デジタル撮影に対応した描き方って前とどう違うのにゃ?

吉松
愛用のものさしを持つ吉松さん例えば、動画用紙3枚分のフレーム移動がある場合、セル画の時代は普通サイズの動画用紙を3枚つなげた大きさの紙にキャラクターを描いていた。タップからとても離れた位置にキャラクターを描くことも多くて、そのキャラクターが動くたびに大きな紙ごと動かさなくてはいけなかったんだよ。用紙が大きい分誤差が生まれやすくて、ちょっとでもタップの穴が緩いとキャラクターの口の位置がずれたりして大変だった。

おぎにゃん
ずいぶんとスペースも取るにゃあ。

吉松
それが今は、普通サイズの紙にキャラクターを描き後からデジタル処理で位置を移動することが出来るし、ずれも直せてしまうんだ。作業にかかる時間もかなり減った。便利な世の中になったんだね(笑)。

おぎにゃん
ほにゃ〜。

アニメ仙人
他にデジタル化によって変化した点は、セル画がなくなったことでトレスマシンを使わなくなったことねん。昔はトレスマシンという機械を使って原画の線をセルに転写していたの。これがある程度の濃さで鉛筆描きした線じゃないとセルに写せなかったんだけど、今はスキャンすればいいから薄い線でも全然大丈夫。デジタルになったから、鉛筆である必要すらないのねん。

おぎにゃん
どうして昔は鉛筆じゃなきゃだめだったの?

吉松
トレスマシンは、鉛筆の芯、つまり黒鉛をカーボン紙に反応させて転写する機械でね、鉛筆の粉じゃないと化学反応が起こらなかったんだ。他には理想ペンなら使えたね。

おぎにゃん
理想ペン? プリントゴッコで使うやつのことにゃ?

吉松
ようは、トレスマシンの原理はプリントゴッコと同じなんだ。動画用紙に瞬間的に光を当てて線を写す。

おぎにゃん
マジックでは無理なんだにゃ。

吉松
マジックやボールペンで描いてもセル画に転写できないんだ。逆に言えば、セルに反映したくない部分を、そういうもので書いていたね。色鉛筆も反応しないから影の部分は色鉛筆で描くんだ。色指定なんかはボールペンで書くことが多かったみたいだね。するとトレスマシンに通したときに、色鉛筆やボールペンの部分は反映されないで鉛筆で描いたところだけが転写される。色によってはボールペンでも反応してしまう場合があるから、確実に転写されない赤色をよく使っていたかな。

おぎにゃん
でも、デジタルになった今でも鉛筆が主流なのはにゃんで?

吉松
単純に、間違った線を描いたときに消しゴムで消せるからね。マジックは修正しづらい。以前、僕が他社で制作した『スーパーミルクちゃん』(注2)は太い線のニュアンスを出したくて動画も含め全部マジックで描いていた。間違えたら修正液で消してね。一番最初の打ち合わせのときに僕は「別にアニメーションで太い線もできますよ」って軽く言ったんだけど、その後の動画の人たちの苦労を見ると悪いことしたなぁって(笑)。動画さんは大変そうだったからねえ。

おぎにゃん
動画の作業で難しいのはなんだにゃ?

吉松
人によるから一概には言えないけれど、「ブレ」は結構難しいね。

おぎにゃん
ブレ?

吉松
大きな動きのないときでも、キャラクターが止まっている印象にならないように同じような動画を何枚か描くんだよ。そうするとキャラクターの線がほんの少しずれて、わずかに動いているように見える。その手法をブレと言うんだ。

アニメ仙人
「待てー!!!」と言って腕を伸ばしたおいらの手の先(※イラスト参照)。

※ブレ

おぎにゃん
あ! ぷるぷる震えている。なるほどにゃん。

アニメ仙人
これがなかなか難しいのねん。

吉松
ブレにも色々と種類があり、「同トレスブレ」「ランダムブレ」「斜線ブレ」などが挙げられる。

おぎにゃん
どう違うにゃ?

吉松
同トレスブレというのは同じ原画を2枚トレースし、その2枚を交互に置き換えることでわずかに動いているように見せる手法。人の手で描いている限り、2回トレースしたら1回目と2回目では多少線がずれるものなんだけど、それを逆に利用しているんだね。一方「ランダムブレ」は、始めからトレースする元の原画とは少し違うところに線を引くんだ。動画同士で線が重なり合うことがなく、かつ絵を壊さないように2、3枚描いたら、トレース元の原画も含めてランダムに再生する。そうすると、同トレスブレに比べブレ幅の大きい動きが表現できる。原画の線と動画に描いた線の位置が近すぎるとブレがわからないし、距離が開きすぎるとブレ過ぎてリテイクになっちゃうからあんばいが難しいんだ。パタパタと風になびく髪や服、エフェクトなんかでよく使われるね。

アニメ仙人
フィルムになったのを見たら予想以上にブレててびっくり、とかあるのねん。

吉松
斜線ブレというのは、キャラクターが驚いたときなどに背景に描かれる線をブレさせることだね。(※イラスト参照)

斜線ブレ

おぎにゃん
原画みたいに、動画もひとによってオリジナリティーが出るのにゃ?

吉松
そこまではいかないよ。やり方はいくつかあるけど、動画で奇抜なことをやって視聴者に驚かれても困るからね。

おぎにゃん
吉松さんが動画をやっていたときはどうだったんにゃ?

吉松
うーん。僕は自主制作アニメを作っていたから、動画の仕事はそんなに熱心ではなかったんだ(笑)。アニメーションの流れもだいたい知っていたしね。ただ、丁寧な線を引くっていう部分では、動画をやったことは勉強になったよ。最初は線が引けなくて本当に困ったね。

おぎにゃん
その苦労があって今の吉松さんの作画があるんだにゃ〜! これからもご活躍楽しみにしてますにゃ。吉松さんありがとうございましたにゃ!! 

 

 

注1)撮影台を使わない撮影方法。アナログ撮影に比べて表現方法が多様化したにゃん。詳しくは撮影の回で聞いてみるにゃ。

注2)吉松さんがキャラクターデザインを手がけたアニメ。東京キッズ、スタジオぴえろが制作したにゃ。主人公が可愛らしいわりにシュールなお話。「寿司でも喰いいっか〜」が決め台詞にゃん。

今日は知らない単語がいっぱい出てきたけどわかったかにゃ? 
今回の『動画編』で吉松孝博さんのお話はひとまずおしまいにゃ。吉松さん長い間ありがとうございましたにゃ!あわよくばこれからもおぎにゃんを見守っていて欲しいにゃん。
次回の講師は、現在放映中の『NANA』の監督、浅香守生さんにゃ!! 絵コンテのお話を聞くんだにゃ! 
では次回をお楽しみに〜。ばいばいにゃーん!!
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