おぎにゃん
映画・TV・OVAでは演出のスタンスは変わるにゃ?
浅香
心構えは変わるかもね。映画ではTVシリーズ1話分に比べて時間が長い上に、より綿密に画面や音を作らなくてはいけないでしょう。当然スタッフへの要求も、よりハードルの高いものになるしね。
おぎにゃん
大変にゃん。
浅香
あと、TVシリーズももちろんちゃんと作らなくてはいけないんだけど、映画はさらに時間をかけてじっくり作ることが大事になる。TVシリーズとは制作費のケタが違うから、まずそれに見合ったものを作らなきゃいけない、という気持ちが生まれる。それに、お客さんに料金を払って見に来てもらうものだしね。TVの場合は、どちらかというと少ない労力でいかにおもしろくするかがポイントになってくるね。
おぎにゃん
それはTVシリーズが毎週放送されていくからにゃ?
浅香
毎週30分のアニメを放送し続けるわけだから、映画みたいには時間をかけられないし、少ない予算で制作する必要がある。その制約のなかで、スタッフに迷惑がかからないようにおもしろく作らなくてはいけないし、時間のないなかでもきちんと仕事をしてもらわないといけない。そういう部分で、演出家はアイディアが必要になってくるかなぁ。
おぎにゃん
時間とお金が限られたなかで、作品をおもしろくする方法を考えるんだにゃ!
浅香
仕事をしていると制約があるゆえにおもしろくなるということもあるんだ。僕は、最たるところで言えばリミテッドアニメーションもそうだと思う。
おぎにゃん
リミテッドアニメーション? 聞きなれないフレーズにゃ。
浅香
もともとアニメーションは、毎秒12〜24コマで体や物体すべてを動かすのが基本だった。いわゆるフルアニメーションと呼ばれるものだね。けれど、戦後の日本ではTVでアニメを放送するために、制作費と時間と労力を減らしてフィルムを作る方法が求められたんだ。
おぎにゃん
それはもしや『鉄腕アトム』(注2)とかだにゃ!?
浅香
そうだね。作画枚数を減らすために3コマずつ同じ絵を撮影して、1秒間に8枚の絵で撮ったり、体全体を動かさずに口や手だけ別セルにして動かしたりした。少ない労力や限られた時間で作るために考えられた手法が、一般的にリミテッドアニメーションと言われているんだ。
おぎにゃん
にゃるほど!
浅香
作画のみでなく演出的にも、止めてPANで見せて画面をもたせる絵コンテ作りや、同じ動き・背景を違う話数で使いまわすバンクシステムなんかも、少ない労力でアニメを作るときのアイディアだね。
おぎにゃん
魔法少女ものの変身シーンとかも、毎回同じだったにゃ!
浅香
制約から生まれたものだけど、シャープな動きやお話の流れにリズムが生まれたりして、有名な手法のひとつになっているね。
おぎにゃん
アニメを見ていてここがおもしろかったら演出の力、っていうポイントはあるにゃ?
浅香
例えば流れの間(マ)とか、会話のリズムがいいとか、シーンをつなぐテンポがいいとか。そういう場合は演出家や編集さん、音響さんの力かな。
おぎにゃん
それって絵コンテマンじゃないにゃ?
浅香
カットの流れを考えているのは絵コンテマンなので、絵コンテによる部分もあるとは思う。でも、別の人が絵コンテと演出をそれぞれ担当している場合、絵コンテマンはコンテを描き上げたら基本的にそれ以上は関わらないんだ。実際に撮影シートをチェックしたりレイアウトを決めたりと、出来上がった絵コンテをもとに作業を進めていくのは演出家の仕事。
おぎにゃん
ふむふむにゃ〜。
浅香
だから、作品がいきいきと呼吸してる、タイミングがいいっていうのは演出家の力による部分が大きい。
おぎにゃん
セリフが終わった途端に場面転換して、なんだか後味すっきりにゃ!ってときとか?
浅香
そうだね。
おぎにゃん
一体どんなタイプの人が演出家を目指すのかにゃ?
浅香
はっきりと言えないけど、アニメーションの表舞台といえば作画って思う人は多いんじゃないかな? 絵を描ける人は最初に作画に興味を持ってそっちに行くのかなという気がするね。演出家を最初から目指している人は、映画ばっかり見ていたとか、映画を撮っていたとか、そういう人が多いのかなと思うよ。
おぎにゃん
ちょっと視点が違うんだにゃ。
浅香
人材としては変り種の方が面白かったりするんだ。ガードマンしてましたとか自衛隊にいましたとか、ホストやってましたとか。そういう人は、経験を活かした特殊な見方ができるしオリジナリティのある演出で作品を作れる。経験していればいい訳じゃないけど、色んな経験をしていて人間性や話がおもしろい人には惹かれるね。ただ僕が思うのは、「演出家を目指す」とかそういうことよりも、「何で演出家をやりたいのか」って方がポイントじゃないかな、ってこと。
おぎにゃん
ほにゃ?
浅香
人によって考え方は違うかもしれないけど、最終的には役職ではなく仕事の内容が目的になってくるんじゃないかなって。自分のメッセージを込めた作品を作りたいとか、映画をやりたいとか、アカデミー賞をとりたいとかね(笑)。やりたい仕事内容を実現するために監督をやったりプロデューサーになったり、絵コンテ描いたり、ということかなぁ。演出家をやったら次は別の作業をしてみたいと考える人もいるし、演出だけに打ち込んで職人的な仕事を残していく人もいる。人それぞれだと思うよ。
おぎにゃん
まずはやりたいことありき! なんだにゃ。浅香さんは今後どんなことをしたいのにゃ?
浅香
内緒(笑)。おもしろいものが作りたいとは常に思ってるよ。でも、今やっている仕事に不満があるかというと、全然ない。っていうか今までやってきた仕事すべてに不満はなくて、振られる仕事が全部おもしろく感じるんだよ。「それやります!」ってすぐ手を伸ばしちゃう(笑)。
おぎにゃん
素晴らしいことにゃん!
浅香
流されるままにここまできたという感じが強いかな。今後は年が年なので考えなきゃいけないなとは思うけど(笑)。あと、自分のなかで節目を決めて「25歳までに演出の仕事ができなければやめちゃお」みたいなことは考えていたね。昔は初任給7万円とかだったので、これじゃやっていけないと思ってた。絶対野たれ死ぬって(笑)。
おぎにゃん
でも、そんなこともなく、こんなにたくさんの作品を作るようになったのにゃ! 今後もがんばってくださいにゃ! 浅香さんありがとうございました〜!!
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