おぎにゃん
脚本を書くまでの流れを知りたいにゃ。
金春
まず、作品の企画が立ち上がってその制作が決定すると、電話とかメールとかで脚本の依頼が来ます。そして脚本の会議が開かれて、そこで担当プロデューサーや監督から「まず第○話をお願いします」って発注を受けるの。その時点で、シリーズ構成の人がすでに第1話を仕上げていることが多いかな。
おぎにゃん
発注会議で依頼されたら書き始める?
金春
すぐに脚本を書くわけではないの。まず、発注を受けてから1週間くらいかけてプロットを作る。
おぎにゃん
プロット?
金春
あらすじって言えばいいかな。話の流れや大まかな場面展開、主なセリフを書いたもののことだよ。『デ・ジ・キャラットにょ』(注1)で依頼されたときは、こんなふうに書いたの(写真参照)。
おぎにゃん
なんとなく、ストーリーがわかるにゃ。
金春
監督やプロデューサーへ、どんな話なのかを伝えるために書くの。このときの依頼はわりと漠然としてて、私が自由に組み立てられた。だから、まずあらすじを考えて、そこへ「こんな場面入れます」、「こういうセリフを言わせる予定です」という自分の意図を具体的に書いていったんだよ。他にも、相談したいことを一緒に書いたりね。
おぎにゃん
これをどうするにゃ?
金春
プロットや脚本を読んで話し合う会議のことを、アニメ業界では「本読み」と言うんだけど、この本読みで他の人に見てもらう。プロットを見たシリーズ構成や監督が「この心情をもっと押してください」とか「このエピソードはいらないかも」など色んな意見を出してくるの。で、その会議をもとにプロットを修正して、脚本を書き始める。
おぎにゃん
どうして始めから脚本を書かにゃいの?
金春
修正がしにくいからだよ。打ち合わせ中「やっぱりこういう流れにしませんか?」と言われたとき、最初から脚本を書いていると、手直しに時間がかかっちゃうでしょ。それに、全然違うあらすじに変更になったら、せっかく脚本を書いても意味がなくなっちゃうし。本読みの出席者も、プロットのほうが、話全体の感じをつかみやすいしね。
おぎにゃん
プロットは必ず書くにゃ?
金春
原作ものだと書かない場合もあるよ。『NANA』は書いてない。
おぎにゃん
どうして書かないのにゃ?
金春
例えば『NANA』だったら、できるだけ原作を尊重して作るって最初に方針が決まってたの。基本的に、視聴者には原作と同じに見えるように、っていう前提なの。だから、動きも音もない紙に印刷されたマンガを映像にするための、細かいアレンジはしてるけど、話そのものはほとんどいじらない。
おぎにゃん
ほにゃ。
金春
プロットを書いても、原作の流れと同じになるわけだし、打ち合わせや作業が余分に増えてしまうよね。だから、プロットを立てずに「もう脚本に入って細かい部分をチェックしましょう」ということになるの。
おぎにゃん
その方が効率がいいんだにゃ。
金春
同じ原作ものでも、『シュガシュガルーン』(注2)はプロットを立てたよ。『シュガシュガルーン』の場合は、原作をベースにした話と、キャラクターを使ってオリジナルストーリーにした話があったからね。プロットを書くかどうかの判断は監督やプロデューサーが決めるんだけど、書かない作品はあまりないと思うよ。
おぎにゃん
プロットの本読みが終わったら、いよいよ脚本に入るのにゃ?
金春
人によっては、脚本を書き始める前に1度ハコ書きをする。
おぎにゃん
またおぎにゃんの知らない言葉が出てきたにゃん!
金春
脚本の下書きみたいなもので、人には見せないの。自分で話を整理するために書くんだよ。プロットよりもっと具体的にストーリーを組んで、シーン割りや重要なセリフは脚本と同じように書いていく。プロットが大きな枠組みで考えたのに比べると、細かい部分の検討をしていく作業になるよ。
おぎにゃん
なんでハコ書きっていうにゃ?
金春
シーンごとに四角い枠を書いて、そのなかに文章を書いていくからだよ。その枠が箱のように見えるから、ハコ書きっていうの。書くかどうかは、脚本家によって違う。書く場合でも、四角い枠は書かない人の方が多いんじゃないかな。私は全体的なハコ書きはしないけど、込み入ったシーンを書く時や、構成に詰まった時には、メモみたいな感じで部分的に書くよ。
おぎにゃん
で、ハコ書きを終えたら、いよいよ脚本なんだにゃ!
金春
そうだね。プロット→ハコ書き→脚本って流れがオーソドックスかな。
おぎにゃん
脚本の書き方を教えてくれにゃ。そわそわ。
金春
脚本って「柱(はしら)」、「ト書き」、「セリフ」の3つの要素でできているの(写真参照)。「○」印のついた1行を柱と言って、場面転換を示す。シーンが変わりましたよ、というサインで、別に「○」でなく「□」でもいいんだけど、「○」で書く人が多い。多分、手書きだった時代には「○」が1番書きやすかったからじゃないかな。
おぎにゃん
シーンごとにまず柱を立てる、とにゃ!
金春
で、地の文章のことをト書きと呼ぶんだけど、これは3字下げて書く。人によっては2字下げの場合もあるよ。そして、セリフは必ずしゃべっている人の名前を始めに書き、2行目からは1字下げて続ける。けど、最近はパソコンで設定するのが面倒で、1字下げずに書いている人もいる。ようは、ぱっと見たときに、どこがセリフでどこがト書きかわかればいいの。
おぎにゃん
ぷちこ「(手を挙げて)スリランカにゅ!」ってとこの(手を挙げて)ってのは何にゃ?
金春
これは、セリフと動作が同時ですよって意味。手を挙げてから「スリランカにゅ!」と言うんじゃなくて、2つのアクションをいっぺんにしているってこと。
おぎにゃん
じゃあ、×××ってのは?(写真参照)
金春
これは同じ場所での時間の経過を表すの。×××の前で、「ほっけみりん、嬉しそうにくるくる回りながら、奥へ行く。ぷちこも回りながらついていく」とあるでしょ。で、×××の後ろでは、「ぷちこ、ほっけみりんと並んで、本殿裏の庭石に腰掛けている」とある。
おぎにゃん
! どちらも同じまんまる神社の境内なのに、微妙に時間が経ってるにゃ!
金春
同じシーンのなかで、ちょっと時間が経ちました、というときなんかに×××を入れるの。
おぎにゃん
なるほどにゃ。
(第6回中編に続く) |