おぎにゃん
おぎにゃんは前回、アフレコ現場を見学させてもらったにゃん。そのとき、収録で3本のマイクを使っていたけど、誰がどのマイクを使うか音響監督が指定しているのかにゃ?
山田
事前に僕が決めるんじゃなくて、テストの流れのなかで誰がどのマイクを使うか決まっていくんだ。
おぎにゃん
今日は、全部で11人も役者さんがいたけどみんな被ることなくマイクを使っていたにゃ。
山田
おぎにゃん、「11人も」っていったけど、今日は少ないほうなんだよ。
おぎにゃん
えぇ!? ヨツバグループの人たちも登場したから多いのかと思ってたにゃ!
山田
画面に登場していてもセリフがあるとは限らないでしょう。セリフがなければ当然アフレコはしないから、今日はヨツバグループが全員きていたわけじゃない。一番多かったのは前回の収録で、22、23人だったかなぁ。
おぎにゃん
がーん! そうだったのにゃ!!
山田
おぎにゃんは、知らないことがいっぱいだなぁ。
おぎにゃん
そ、そうなのにゃ…! それで、山田さんに音響監督のお仕事を教えて欲しいにゃ!
山田
うん、色々と勉強するといいね。
おぎにゃん
では、さっそく音響監督のお仕事を教えて欲しいにゃん!
山田
音響監督の仕事は、番組の立ち上げのときと、各話のアフレコ&ダビング作業のときとで変わってくるよ。
おぎにゃん
まず各話ごとで行なう作業を知りたいにゃん。アフレコ中、音響監督はどんなことをしているにゃ?
山田
アニメーション制作で監督がすべてを把握する役目なのと同じように、音響監督の仕事も一言で言えば「音響のすべてを把握し、束ねる」ことなんだよ。監督は原画をすべて描いたり全話の演出をするわけじゃないけど、方向性を決めたり全体をまとめるかたちで作品のバランスをとっているでしょう。音響監督も同じで、機材を使った収録作業はミキサーや録音助手の人がやっているけど、その方向をまとめたり、全体のバランスを取ったりする役目を担っている。例えば「ここの音楽はどうしよう」とか「監督の意向に沿いつつも、もっとよくするにはどうしよう」といったことを自分なりに考える。
おぎにゃん
なるほどにゃ〜。アフレコはAパートとBパートでわけて収録すると聞いたけど、本番はカットごとに録音を区切ったりするのかにゃ?
山田
基本的にはNGがない限りとめないよ。NGが出たときだけ、「リテイク」といって本番が終わってから取り直すんだ。その指示を役者さんに「ここからここまでのシーンもう一度お願いします」って出すのも音響監督の仕事のひとつ。
おぎにゃん
NGって、役者さんがセリフを間違えちゃったり?
山田
それもあるけど、役者さんは皆さんプロだから基本間違えないよ。セリフを間違えるというよりは、役者さんの芝居が制作側の狙いとは違っていたりとか、そういう場合かな。他には、ノイズが入っちゃったり「ペーパー」といって台本をめくる音が入っちゃったりしてもリテイクになる。とはいっても、ペーパーが入ったからといって必ずリテイクにするわけじゃない。その判断はミキサーさんがするんだけど、ミキサーさんが「大丈夫」と言えば多少ペーパーが入ってても芝居がよければOKだったりするの。『DEATH NOTE』はミキサーのはたくんがとてもしっかりしているのでぼくは安心して判断を任せている。あとではたくんにもお話を聞くといいよ。
おぎにゃん
ぜひそうさせてもらうにゃ! それで、リテイクのときの「ここからここまで」って言うのはどうやって一区切りを決めるのにゃ?
山田
役者さんは皆さんプロだから「ここのワンカットだけセリフを下さい」ってお願いすることもできる。でも芝居には流れがあるし、キャラクターの感情は最初からずっとつながっているでしょ。人間は機械じゃないから、本当に欲しいセリフだけもらおうとしてもうまくいかないんだよ。それよりもそのセリフの前後の感情のつながりを汲んで「ここからここまでお願いします」ってした方が結果的にいいんだね。
おぎにゃん
じゃあ編集する段階になったら、「ここのセリフだけ欲しかったけど、その前のリテイクで収録した部分もよかったから、取り直した方でいこう」みたいなことも?
山田
それはあるよね。ワンカットのセリフしか必要なかったんだけど、「一応もらっておこう」と思って録音したセリフがよくて、リテイク部分を全部つかうこともある。
おぎにゃん
リテイクじゃなくて、はじめから区切ってアフレコしていた部分があったにゃ。あれはなんでにゃ?
山田
それは「別取り」のことだね。
おぎにゃん
別取り??
山田
二人のキャラクターが同時にしゃべったり、セリフの頭とおしりが重なっているときはそれぞれのセリフを独立でとることがある。例えば、誰かがしゃべっているときに、別のキャラクターが走ってきて息が上がってて、ハァハァしているとかね。でもこれも、ミキサーの力量次第で別取りしなくても大丈夫だったりする。
おぎにゃん
音響監督とミキサーとの信頼関係も大切にゃんだな。
山田
『DEATH NOTE』の場合は、はたくんがたいていのケースは別取りなしでこなしてくれる。でも、どうしても別取りをしなくてはいけない場合もあるんだよ。
おぎにゃん
どういう場合にゃ?
山田
例えば、『DEATH NOTE』では「ヨツバグループの秘密の会議をLやライトたちがモニターで見ている」ってシーンがあったでしょう。モニター越しのヨツバグループの会話と、Lやライトたちの会話が重なる部分があるんだけど、そのときモニター越しの会話は別取りにする。モニターを通すとナマの声とは違った音質になるから、ヨツバグループのほうのセリフはエフェクターをかけて加工する必要がある。
おぎにゃん
声が重なっていたら加工処理ができなくなっちゃうんだにゃ!!
山田
おぎにゃんは今日アフレコ見学をしていて何か気づいた?
おぎにゃん
…………、アニメーションが完成してなかったにゃん……。
山田
そうなんだよー!って惜しいけどちょっと違う。そもそも最近は、アニメーションが完成した状態でアフレコする場合のほうが少ないしね(笑)。誰かが「え!」って驚いていたり、数人がどよめいていたりするのをリアクションっていうんだけど、そのリアクションは必ず別取りにしていたんだ。気づいた?
おぎにゃん
そういえば! でもにゃんで?
山田
なぜかというと、さっき言ったみたいに、絵が制作途中なのにアフレコをしなきゃいけないってことが最近はよくあるんだ。そういう場合は、アニメーションの絵が完成してみないとリアクションが必要なのか不要なのかわからないでしょう。だから基本リアクションは別取りにしておくの。不要な場合はリアクションを入れなければいいし、欲しいときは入れればいい。
おぎにゃん
臨機応変に対応できるんだにゃ!
(番外編その2 後編に続く) |