意外な苦労も?スタッフに聞いてみました。
高坂希太郎監督とのお仕事
スタッフアンケート
『茄子・アンダルシアの夏』(03)以来15年ぶりの長編劇場アニメーションを監督した高坂希太郎監督。これまで『もののけ姫』や『千と千尋の神隠し』『風立ちぬ』等の作画監督を務め、数多くのスタジオジブリ映画の中枢を担ってきた日本を代表するアニメーターである高坂監督の元には錚々たるスタッフが集結!そもそも監督ってどんなひと?高坂さんとの仕事がどうだったか、苦労したことがあるのか、などスタッフのみなさまに聞いてみました!
脚本:吉田玲子
高坂さんとの仕事で印象に残っている事象
最初の打ち合せの時に、高坂監督が描かれたイメージイラストが何枚かあったのですが、その絵のムードと情感がすばらしいと思いました。
おっこが住む街の概観もすでにあって、地理感覚を掴むのに大変参考になりました。
原作の中で監督が重要と思われていることは、現実を受け入れる、そのうえで誰かに喜んでもらうために何かをする、前向きな毎日が自分も他人も幸せにする…ということなのかなと思いました。
美術設定:矢内京子
高坂さんとの仕事で印象に残っている事象
自分は普段は実写の映画の仕事をしているんですが、「思い出のマーニー」の設定の応援をやった縁で、この作品で高坂さんと仕事することになりました。
そして美術設定として最初の4ヶ月ほどしか参加していないのですが、まず印象に残っていることと言えば、とにかく高坂さん対策として、早め早めに途中でもいいから絵を見せて相談すること、でした。
土日を挟んで月曜日に絵を見せるとそのたった2日間で高坂さんが思っていることと、自分がこう、と思っていることがずれていて描き直し、ということがあるので、とにかく同じ場にいて相談することが不可欠でした。
それともう一つ、1日中黙々と絵を描いているんですが、3時ごろになると高坂さんがよく政治絡みの雑談をし始め、1時間ぐらいしゃべっている、ということがほぼ毎日あり、それは息抜きでもあり面白かったです。話についてけない時もよくありましたが、いろいろ政治や雑学など幅広く知っている方だなあと思いました。
高坂さん含め、アニメの人たちは絵がうまいので(当たり前ですが)、しかもアニメの設定とは本当にこれで正しいんだろうか?自分で描いたものがこれでいいんだろうか?と思うこともよくありましたが、とにかく短い期間でできるだけたくさんの設定を描くようには心掛けました。
高坂さんの要望で苦労したこと
最初は言われること全てに苦労していましたが、話をしていくうちに、描くものが増えていくうちに、高坂さんが監督である「若おかみは小学生!」を理解出来てきたように思います。
それより、自分は実写の美術が本業なのでデザインする時もあり、ロケハンに行く時もあり、建て込みもあり、撮影で現場にいたり、結構動いていることが多いので、何と言ってもじっとひたすら机に毎日向かっているのが 苦労した点ではないかと思います。
美術監督:渡邊洋一
高坂さんとの仕事で印象に残っている事象
映画制作に於いて人目に触れるのは完成画面だけですので、準備作業(美術ボードなど)を如何に効率よく減らして、本番作業に時間を割くか?がクオリティを上げるポイントになります。
高坂さんの絵コンテはそのままレイアウトに流用できるほどのクオリティで描かれていますので、それに彩色する形で美術ボードを描くと、完成画面を直にイメージできるボードとなります。通常発生するステップを幾つか省くことができて助かりました。
また、高坂さんは色彩に対する造詣が非常に深いので、指示は詳細なものとなりました。
それをそのまま絵に反映でき、それで一発OKとなれば話は簡単ですが「描いてみないと判らない」のが絵の世界で、描いてはみたけどイメージと違った…ということもよくあり、結果として調整量は多くなってしまいました。
ただ、それによって私の持っているイメージだけでは表現出来なかった「豊かな色彩の画面」を構築できたと感謝しています。
高坂さんの要望で苦労したこと
高坂さんからは「こってり」した雰囲気の画面を求められたのですが、私はあっさりとした絵を描く傾向が強いので、先ずその感覚を持つのに苦労した気がします。
「こってり」と言っても、それを表現する方法は多岐に渡りますので、その選択が難しかったです。
色彩設計:中内照美
高坂さんとの仕事で印象に残っている事象
キャラクター等の色見本を作成する際、高坂さんがイメージボードを水彩画で作成していてくれたり、丁寧にイメージを伝えてくれたので、作業的に大変助かりました。
出来るだけ高坂さんのイメージと原作から離れない様に色を何度もチェックしてもらう作業もキャラクターが可愛らしいので楽しかったです。
キャラの色決めも作画の人たちの意見も取り入れたりと、作業現場としては和やかな感じで進められて良い雰囲気でした。
ただ、食事のシーンや小物など、作画が細部にまで丁寧に描き込まれているので、色を決めて行く作業は大変でした。
撮影監督・VFXスーパーバイザー:加藤道哉
高坂さんとの仕事で印象に残っている事象
監督の最初のイメージボードが素晴らしいので、ファイナルルックをそのイメージに近づけることが、大きな課題でした。
すばらしい濃厚な絵素材を変えることなく、映像空間に足し算、引き算できるように、カット毎に素材規模で微弱な色の調整を加えました。その地道な工程もあり、「ちゃんとした素朴な絵」を生み出せたと思います。
高坂さんの要望で苦労したこと
監督の経歴が伝説的な名作ばかりで、従って求められる絵の要求が非常に高いのです。
非常に感覚的な監督なので、映像制作に関して、まず監督の感じた違和感から探すようにしています。3DCGも手描きと違和感を持たせないために、デジタル作業で感覚的に変更できるようにすることが非常に大変でした。
感覚的なのか、スタッフに出した要望を忘れてしまうことには、少し困りました。(笑)
音響監督:三間雅文
高坂さんとの仕事で印象に残っている事象
こんな問いが自分のところにやって来た、、、。
実に難しい問いだ。
作品についてではなく、監督について。
今まで経験が無い問いだけに
答えに困った、、、。
そうか、今までに無いからこその問いなのか!
と無意味に納得し、書き始める。
だが、何度も何度も、自らが書いたことに
自ら「ボツ」、、、。
そう、私にとっての高坂監督は「奇才」なのだ。
読み切れない監督なのだと、、、。
前作でタッグを組み
自分が高坂監督を理解したと勘違いし
大失敗をしてしまっている。
今回、「若おかみ?」でオファーが来た事さえ
私的には奇跡と言える、、、。
前回の失敗を取り戻せ?試練なのか?と。
音響監督とは、監督を理解してこその役割
それが、前回見事に失敗し
高坂監督を不安にさせた、、、。
2度と間違いは出来ない。
というわけで、最初の打ち合わせから
「探る」高坂監督を探る意味で
こちらはアイディアを押し付けず、を意識して挑んだ。
高坂監督の作りたい世界観をまずは
読み取る事から、始めたのだ。
それは、キャスティングから、音楽メニューから
効果音に至るまで
自分に対する修正は多少しながらも
高坂監督を探る、、、。
高坂監督は、自らが持つイメージが濃い。
だが、それをどう具現化するのかを
いつも悩んでいるように思える。
間違ってもいいので、どんどん言ってほしいのだが
そこは、気を使う高坂監督だけに
なかなか出て来ない、、、。
こちらが、読み切れれば!と常に悔しいジレンマに陥る。
奇才と思うだけに、高坂監督のイメージ通りのシーンは
やはり面白い。
だからこそ、だからこそ、なのである。
結果、今回も高坂監督を読み取る事が出来ず
さらには、「なぜ、このシーンは流れて行っちゃうんでしょう?」の
高坂監督の問いに、監督を納得させる言葉が出なかった事に悔やむ。
まだまだ、修行が必要だと思い知った。
高坂監督と仕事をさせて頂き
再び、原点に帰らせてもらったのだ。
だが、次回はあるだろうか、、、。
©令丈ヒロ子・亜沙美・講談社/若おかみは小学生!製作委員会