吉松
おぎにゃんは、動画って何なのかわかる?
おぎにゃん
アニメーションの動きを滑らかにするために原画と原画の間に挟む絵のことだにゃ! 動画マンが描いてるんだにゃん。前回ちょっと勉強したにゃ。
吉松
簡単に言えばそうだね。けれど、動画の作業はそれだけではないし、とても奥深い面も持っているんだ。アニメーションのなかでの動画の役割、実際に動画マンはどういう作業をしているのか、見ていこうか。
おぎにゃん
頼むにゃん!
吉松
じゃ、動画マンが作業するときに使う道具から説明しよう。まずは動画用紙。
おぎにゃん
原画の回で見た用紙と同じやつだにゃ! でも、紙の上のほうに穴が開いているのはにゃんでなんだろう?
吉松
その穴はね、タップ(※写真参照)を通すためにあるんだ。タップというのは、動画用紙を固定する道具のことで、文鎮のような役割を果たすんだよ。動画用紙の穴にタップを通すことで、何枚も重ねたときに紙がずれないようにするんだ。
おぎにゃん
必需品だにゃ。
吉松
他には、鉛筆、色鉛筆、ものさしやコンパス、セロテープなんかが必要だね。テンプレートもあると助かるなぁ。
おぎにゃん
テンプレート?
吉松
円を描くときに必要な道具だよ。原画が使ってないと意味ないけどね。あと、僕は使わなかったけれど、雲形定規もあると便利。基本的には、原画も動画も使う道具は同じだね。
おぎにゃん
にゃるほど〜。動画の仕事のほうも教えて欲しいにゃん。
吉松
動画は、まず原画をトレースするんだ。トレースとは簡単に言うと原画を写す作業だよ。原画をトレス台(※写真参照)に乗せて、その上に自分が描く動画用紙を乗せる。そして下から光を当てて透かしながら原画の線をなぞるんだ(※イラスト参照)。原画はわりとラフな線で描かれているからきれいで均一な線に写し直す、ようは清書作業だね。このことを「クリンナップ」とも言う。それが、動画マンの作業の第1段階。
おぎにゃん
クリンナップ…と。で、第2段階は?
吉松
次は、原画マンの指示に従って動画を描く。さっきおぎにゃんが言ったような、原画と原画の間に絵を挟み、アニメーションの動きをより滑らかにする作業だよ。例えば、「原画(1)と(2)の間に、4枚動画を挟む」という指示があったら、原画と原画の間の絵を4枚描くんだ。そして、この原画の間に動画を入れていくことを「中割り」と言って、この場合だったら「原画(1)と(2)の間を4枚で中を割る」と言ったり、「中割りを4枚入れる」と言ったりするんだ。どこを何枚割るかは、タイムシートに従う。
おぎにゃん
タイムシートの、原画マンが書き込んだ欄を参考にするんだにゃ。
吉松
参考にすると同時に、タイムシートに動画の流れを改めて書き込む作業も担当しているんだよ。というのも、実は原画マンがタイムシートに記しているのは原画番号だけで、中割りは「・」を打ってあるのみなんだ。最終的な動画番号は載っていないし、あとから演出さんの修正が入ることも多い。そこで、動画マンはどこに何番目の動画が入るのかわかるように番号を記入して、撮影で使用するための表に書き込むんだ(※写真参照)。この作業は主に、動画を描く前に行うんだけどね。
おぎにゃん
え〜と、つまり、タイムシートで中割りの指示を確認して表に書き込んで、それに従って動画を描く、とにゃ。
吉松
今は、原画段階で作画監督や原画マンから「どこを何枚割るか」だけではなく「こう割ってくれ」という割り方の指定が入っている場合も多いね。
おぎにゃん
割り方の指定って?
吉松
例えば、動き始めに少し動画を寄せる、動きが止まる部分に動画を寄せる、というような指示だね。動画を寄せることを「ツメ」と言って、動画の寄せ方を指示することは「ツメ指示」と言う。同じ原画でも「先ヅメ」と「後ヅメ」では動いたときの印象がかなり変わって見えるからね。
おぎにゃん
先ヅメと後ヅメ?? 全然ついていけないにゃ……。
アニメ仙人
どろんどろん! 説明するのねん。
おぎにゃん
あ、この効果音を口に出すくせはお師匠!
アニメ仙人
おぎにゃんのピンチを救うのねん! おいらが、先ヅメと後ヅメの違いを説明してあげるねん。まず先ヅメと書いてあるイラストを見て欲しいのねん(※イラスト参照)。おぎにゃんのしっぽにA1〜A5の番号がふってあるねん。一番始めのA1と最後のA5のしっぽを原画で描かれた分とするのねん。
おぎにゃん
じゃあ、その間に挟まれているA2〜A4のしっぽが「中割り」の動画にゃんだな。
アニメ仙人
おぎにゃん何かイラストを見ていて気づかない?
おぎにゃん
しっぽとしっぽの間の余白が徐々に開いているにゃ! A1-A2の間隔やA2-A3の間隔は狭いのに、A3-A4やA4-A5の間隔は広いにゃん。
吉松
アニメーションの動きで言えば、A2-A3間ではあまりしっぽに動きがないけれど、A4-A5間では大きな動きになっているんだね。
おぎにゃん
それがどうかしたにゃん?
アニメ仙人
この先ヅメの動きをアニメーションにするとこんな感じ(※アニメーション参照)になるのねん。動き始めに動画の枚数を割いているのよ。だから映像では、最初はゆっくりとしっぽが動き、A5に近づくにつれてしっぽの動きは速くなる。動作の終わりの方では動きが大きくなり、映像に勢いも出てくる。これが先ヅメというツメ方なのねん。
吉松
先ヅメで中を割ると派手な感じになるんだよ。
おぎにゃん
じゃ、後ヅメは?
アニメ仙人
後ヅメは、先ヅメとは反対の手法なのねん。今度は後ヅメと書かれたイラストを見て欲しいねん(※イラスト参照)。
中を割る動画が後ろに寄っているでしょう。A1-A2の間隔が広くてA4-A5の間隔は狭いのねん。これをアニメーションで再現するとこんな感じ(↓)なのねん。先ヅメに比べて、初動が早い。そしてA5の位置に近づくにつれ徐々にスピードが落ち、ゆっくりとした動きになっているのねん。
おぎにゃん
先ヅメと見比べると……ほにゃ! 動きが違うにゃ!
アニメ仙人
ようは、割り方いかんで雰囲気がかなり変わってくるのねん。
おぎにゃん
動画をどう割るかでも、アニメーションの印象って違うんだにゃ〜。
アニメ仙人
動画はそういう創造的な部分が見過ごされがちなのよん。
吉松
昔は、いかに動画がクリエイティブな仕事かわかるくらい、原画の枚数が少なかったんだ。指示もいい加減だったので動画の遊びが色々とできたんだよ。昔の不親切な原画はそういった意味では楽しいものだったね。今はどうなんだろう。以前に比べると指示も細かいし、あまりクリエイティブとは言えない部分もあるかもしれない。
おぎにゃん
どうして指示が細かくなってきたにゃ?
吉松
外部のスタジオなどを頼るようになってきたことが一番大きな理由かな。昔は動画マンと原画マンは同じスタジオで作業をするのが主流だったけれど、今は外部の人に頼むケースが多い。海外に出したりもするしね。動画マンが近くにいれば、分からないときはすぐに聞いてくれるし、ある程度信頼もできるでしょ。でも、顔も知らない人に動画を任せるとなると心配だよね。だから指示を細かく出すようになってきているんだろうね。
おぎにゃん
念には念を、って感じなんだにゃ。
(第3回後編に続く) |