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おぎにゃんと学ぼう! アニメの作り方
■第5回 どきどき! 演出のお仕事にせまるにゃん(前編)
みなさんこんにちにゃん! めっきり寒くなってきた今日この頃、おぎにゃんこたつでぐうたらしたいにゃ。
アニメへの情熱と知識量が認められたとき、「アニメちゃん」の称号がもらえるらしいのにゃ。……やっぱりその日のために、今日もお勉強にゃーん!
今回の『演出』って抽象的な役職名でおぎにゃんイメージわかないにゃ。クールなナイスガイの浅香さーん、教えてくれにゃーん!!

講師プロフィール
浅香守生
1967年3月11日生まれ 兵庫県出身
1989年『YAWARA!!』で演出デビューし、その後1993年『POPS』で初監督を務める。主な監督作品は『人魚の傷』『カードキャプターさくら』(TV&劇場)『ギャラクシーエンジェル』『ちょびっツ』など多数。マッドハウス生え抜きの演出家の1人で、現在は好評放映中の『NANA』の監督として活躍中。

おぎにゃん
演出ってどんなことしてるにゃ?

浅香
簡単に言うと演出の仕事はチェック作業なんだよ。「あっちにゴールがあるからみんなで走ろう」って指示を出して、違う方向に走っている人には「ちがうよ、こっちだよ」って方向を示すような感じ。原画マンに「こんな感じで」ってカットをお願いして、上がってきたカットをチェックして次のセクションに回わしたり、リテークを出したりする。背景や、色指定に対しても同じようにチェック作業をする。

おぎにゃん
舞台や実写映画で言うところの演出家とは意味合いが違うのかにゃ?

浅香
基本的には同じだと思うよ。原画マンが役者だとしたら、演出家はそれに指示を出す人。上がってきたものに「こうして下さい」って注文つけたり、人によっては自分で絵を描いたりもする。だからアニメーション独特の作業ではあるけど、芝居でいうところの演技指導みたいな面もあるんだ。

おぎにゃん
演出家の仕事の流れはどうなっているにゃ?

浅香
まず最初に担当話の絵コンテをもらって、監督とおおまかな話の方向性を打ち合わせる。

『NANA』演出打ちの風景

次に、どのカットをどの原画マンにお願いするか考えて、原画マンのスケジュールも検討しつつ割り振っていくんだ。

おぎにゃん
このカットはこの原画マンにお願いしたい、というのはあるにゃ?

浅香
もちろんあるよ。しっとり系のシーンはこの原画マンに任せようとか、原画さんの特性を活かした派手なシーンを用意しよう、とかね。シーンを用意するというのは絵コンテもやってないとできないけど。そしてカットごとの原画マンが決まったら、それぞれ個別に作画打ち合わせをしていく。「このカットはこうして下さい」「この絵はこんな感じで」って具合に。

おぎにゃん
個人面談みたいにゃ。

浅香
作画打ち合わせが済んだら作画作業に入ってもらう。そうすると今度はレイアウトや原画のチェック作業もこなさなきゃならない。

おぎにゃん
徐々に仕事が増えてきたにゃ。

浅香
例えば、演出家が会社に朝くるでしょ。といっても、昼過ぎから夕方にくる人の方が多いんだけど(笑)。そうすると、原画マンから回収されたレイアウトや原画が、カット袋に入った状態で机の上に置いてあるんだ。それを絵コンテや自分のイメージに沿ってチェックして、「こう直してください」と作画監督への指示を書いたり、場合によってはリテークとしてもう1度原画マンに戻して描き直してもらったりする。そして、最終的には担当話数のカットをすべてチェックするんだ。チェックの済んだ原画やレイアウトは、作画監督にまわされる。

おぎにゃん
吉松さんも言ってたにゃ!

浅香
他には、制作が進んでいくと撮影されたフィルムも徐々に上がってくるから、それも随時チェックする。この段階までくるとさすがに監督も一緒に見たりするけど、それまでのところは演出家がずっと一人でチェックしているんだ。あと、打ち合わせをするのも基本的に演出家の仕事。

おぎにゃん
打ち合わせってプロデューサーがやるのかと思ってたにゃん。会議室でよく見かけるから……。

浅香
もちろんプロデューサーも打ち合わせはしているけど、内容が違ってね。演出家のする打ち合わせというのは、より制作現場に近い部分を詰めていく作業なんだよ。具体的に「このカットはこうして下さい」とか、「ここで5秒間、間(マ)が欲しいです」とかね。

おぎにゃん
現場での実際の作業に関する内容にゃんだな。

浅香
例えば、音響に関する打ち合わせで言えば、あらかじめ音響さんには監督やプロデューサーから指示が入っていて、すでに大まかな流れは決まっているんだけど、カットごとに決まっている細かい部分に関しては演出がそのつど指示を出していく。監督は大きな枠で作品を見ているので細かい部分はわからない。「ここはコンテには描いてませんが、実際はこんな芝居があります」とかそういうことは各話の演出家の方がよっぽど詳しく知っている。というか演出家にしかわからないんだ。だから、アフレコやダビングの現場に行って指示を出すのも演出家。

おぎにゃん
じゃ、監督より演出家の方がチェックが細かい、細部にこだわる、ってこともあったりするにゃ?

浅香
そういうケースも多いと思うよ。演出家はその話数を仕切って、責任を持っておもしろくする人だからね。

おぎにゃん
各話ごとの監督みたいなものにゃんだな。いないと困るにゃ?

浅香
とても困るよ。演出はすごく大切な仕事だと思う。これは作画さんに失礼な言い方になってしまうかもしれないけど、作画がいかによくなくても演出家さえ愛を持って仕事をしていれば作品はおもしろくなると思うよ。演出家がその作品を見捨てない限り、間違ったものにはならない。極論だけどね。

おぎにゃん
絵コンテマンと演出家が同じ人、という場合は何か意味があるにゃ?

浅香
というかね、本当はひとりの人間が絵コンテと演出の両方を担当する方がいいんだと僕は思う。その方が意図は伝わりやすいし指示も明確になる。絵コンテだけ自分で描いて演出は他の人に任せたときって、作品の出来上がりを見てどこか違うなと思うんだ。それは、芝居などの間(マ)であったり、表現したいポイントがずれているということであったりなんだろうけど。逆に、演出作業をやっていて、もらった絵コンテの意図がわからないということもあるしね。

おぎにゃん
じゃあいつも絵コンテと演出を同じ人が担当すればいいにゃ。

浅香
それは各自の仕事へのスタンスが優先されるから、強制はできないね。僕が演出をしていて絵コンテでわからない部分があると、「こっちの方がおもしろいからこうしよう」とか自分なりにアレンジしてみる。結局どちらがよかったかは見た人が判断するから、一概に変えればいいとは言えないけど。でも演出と絵コンテを別の人が担当した結果、掛け算的におもしろくなることもあるんだ。

おぎにゃん
絵コンテマンと直接打ち合わせや相談はしないにゃ?

浅香
その辺は監督が間に立つ。絵コンテの回でも少し話したけど、演出家と絵コンテマン、絵コンテマンと脚本家、といったつながりでは基本的に打ち合せはしないんだ。そこは必ず監督を通して、監督と絵コンテマン、監督と演出家、というように個別で打ち合せをしていく。監督が作品全体を管理して方向性を決めているから、演出家と絵コンテマンで詰めて1話だけ方向性が違ってしまっても困るしね。

おぎにゃん
よく、監督が第1話で演出・絵コンテと三役兼ねている場合があるにゃ。あれも、自分で全体を把握するためにゃ?

浅香
主な理由としてはそれが一つ。もう一つは、作品の方向性を示さないといけない、という点。言葉で相手に説明してダメ出しをして、というのを繰り返すよりは、自分で実際に絵コンテ・演出の作業をして示した方が手っ取り早い。完成したフィルムを「これ見てください」って渡せば、他の演出家にもどういう方向性で作りたいのかわかってもらえるからね。さっきも言ったように、自分が絵コンテを担当して他の方に演出をやってもらっただけでも、違和感がある。だから、最初に自分で絵コンテ・演出を担当するのが一番イメージを伝えやすい。果汁100%な感じで(笑)、これまるごとが僕の考える方向性です、って。

おぎにゃん
TVシリーズは何人も演出家がいるにゃ。誰が全体のバランスを取っているにゃ?

浅香
監督やチーフ演出、設定制作の人かなぁ。だいたい監督がバランスを取っているけれど、監督が現場に寄っている人かどうかで変わってくる。設定制作の人も、だいぶ作品の根幹に関わることをして演出のバランスを取る場合もあれば、資料を集めるだけのケースもある。作品やスタッフの顔ぶれによって誰が全体をまとめているかは違うかな。

おぎにゃん
演出家の割り振りをするのは?

浅香
監督かプロデューサー、それかデスクさん。『NANA』の場合は中本くん(注1)がやってくれているよ。割り振り方としてはTVシリーズなら「前回このエピソードをやってもらって、そのときの回想シーンがこの話に出てくるから、同じ演出家にやってもらおう」とか。そうすると、気持ちがつながるからね。『ギャラクシーエンジェル』のときには「この演出さんはこのキャラクターが好きだからこの話をやってもらおう」とかあったよ(笑)。

おぎにゃん
演出家によって得意なジャンルや持ち味があるにゃ? 

浅香
ギャグものをやらせるとおもしろい人とかメカものが好きな人とか、オールマイティな人とか。だけど、そういう演出家でも、前回ギャグをやったから今回はしっとりしたのがやりたいとか、これは飽きたから次は違う雰囲気の演出をしたい、という場合もある。だから、得意なジャンルという考え方ではなくて、その人がどんな演出回を欲しているのかも重要かな。それを汲み取ることで作品の出来上がりも違ってくるから、そこら辺は監督やプロデューサーの腕の見せ所かもしれない(笑)。

おぎにゃん
演出家の意欲が高まりそうなものをお願いするんだにゃ。

 

第5回後編に続く

注1)中本健二さんのことにゃ。『NANA』の制作プロデューサーで、縁の下の力持ちとして、大忙しにがんばっているのにゃ!

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