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Interview

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――渡邉さんは『BTOOOM!』で初監督ですね。“マッドハウスっぽい”作品がきたなと思いませんでしたか。

渡邉 (笑)。確かに、一時期のマッドハウスに感じていた血みどろ風な作品がきたなと思いました。1クールだったのでどう結末を持っていけばいいかが難しかったですね。初監督だったのですが、シナリオライターの黒田(洋介)さんや、原作者の井上(淳哉)さんが凄く協力的だったので、そこで話し合って。楽しかったです。

増原 いい現場ですね。

渡邉 でも私が無茶苦茶なことを言うから、大変だったと思います。なるべく原作通りにしたいけど、12本に収めるには物量が多くて。映像はそのときの流行りに合わせて詰めまくりました。各話1.5本分くらいの内容をやったんです。で、コンテを頼むと400カットぐらいで上がってきたのを無理やり締めて、それでも350ぐらいになる。1カットあたりの枚数は少なくしつつ、カット数の多さで映像を作っていきましたね。作風には合っていたと思います。

――そのあたりの省力化テクニックはマッドハウスっぽい感じがしました。渡邉さんは『金の国 水の国』で監督は2回目ですか。

渡邉 『SAY!YOU! SAY!ME!』という地方番組で、『のらのらの〜ら』というSKE48の子たちが声優経験をするためのアニメーションを作ったんです。実はそれが監督デビューではあるのですが。TVアニメーションだと『BTOOOM!』で。だから実質的に『金の国 水の国』が2回目になると思います。

――『BTOOOM!』とは随分毛色が違う作品になりますが、『金の国 水の国』ではマッドハウス作品の経験が活きていますか。

渡邉 『BTOOOM!』からの10年でやってきた『ちはやふる』や『俺物語!!』の経験は活きていますね。少女漫画ですしね。

――増原さんは今回アニメーションスーパーバイザーっていう肩書なのですが、これはどういう役割なんですか。

渡邉 自分は色々な人に相談することが多いのですが、増原さんはアドバイザーとして立ってくださってました。
実作業としては各々自身で演出するパートはもう一方が俯瞰でみる形で進めていました。

――『金の国 水の国』を制作するにあたって、気をつけたことはありますか。

渡邉 読んだ後の多幸感が印象的な作品だったので、そこに向かってどう構成していこうかなと。そこを逃さないようにしないと許されない作品だと思っていました。あとは映像として難しいところは、置き換えたりもしていますが……。

増原 (原作と)はっきり変わっているところでいえば、冒頭シーンですね。漫画版は、A国とB国がありまして、割とサラッとした原因で戦争になるんですよ。ただ、劇場作品というイメージを持って見にきているお客さんに対しては、冒頭シーンにもう少し厚みを持たせた方が入りやすいのではないかと。マンガは「この作品が読みたい!」と思って買っている方が多いでしょうから。劇場には原作を知らないお客さんもたくさんいらっしゃるので、そこに気を遣ったつもりです。あと、そのA国B国も岩本(ナオ)先生にアルハミトとバイカリというお名前をいただいて、存在感を肉付けさせていただいたんです。国名を決めたことによって、その実在感を2時間で伝えられるようになった気がします。

――序盤、影絵が出てきて、二国間の関係の説明をしていましたね。

渡邉 2つの国で2つのカップルなのですが、漫画の感想を見ていると勘違いしている人もいて、ちゃんと映像として説明したほうがいいかなと思ったのと、ああいう影絵の方が雰囲気あるかなということで。デザインや架空の文字は私が。

増原 現代劇じゃないですからね。

渡邉 そう。その2つの国の文化圏については、岩本先生も「トルコからこういうデザインを持ってきています」とか、うかがって。資料も貸していただいたので、「じゃあこっちはブータンのこういうデザインのものを」といったやりとりをしました。映像になると美術的な意味合いで原作以上に色が広がって、世界や文化がより分かりやすくなるので、ちゃんと描いてあげたくて。

増原 ただ、それをまま持ってくるっていうわけじゃなくて、この作品の世界観に落とし込んではいるんです。ファンタジーと現実の中間地点を狙った雰囲気にはしていると思うんです。

渡邉 バランスが難しいですよね。原作には神様が実体として出てきますが、それも出さないようにして。フィクションの前提を作らないようにしました。

――リアリティバランスの話でいうと、『俺物語!!』や『ちはやふる』にも存在した漫符表現もあったと思うのですが。

渡邉 原作はギャグ表現にも魅力があるので。ただ、原作にあるギャグをそのまま全部入れることはしていなくて、割合的にはだいぶ少なめにしました。劇場ということもありますが、ギャグを入れると現実に引き戻されるタイミングが出てくる場合があるんです。

増原 例えば、クライマックスで、「二人が逃げるぞ」ってときに、お姉さまたちが兵士の邪魔をしてくれるんですけど、(原作は)邪魔の仕方がギャグっぽいんですよね。マンガは行間の補完について、読者がいい感じにしてくれるので、むしろそのギャグが活きてくるのですが、映像でそれをやると浮いちゃう場合があるんですよ。

渡邉 原作だとそこが魅力的になってもいるところでも、映像としては難しい場合があるんですね。

増原 原作を再現するのであれば、原作をそのままやってはいけないんです。

渡邉 最近だとマンガのコマをちょっと動かすだけのアニメを作るような会社もあると聞くのですが、マッドハウスのやり方は、それとは手法が違うと思います。


渡邉こと乃:監督/絵コンテ/演出
2012年、『BTOOOM!』にて初監督。絵コンテ・演出として、『ちやはふる』『俺物語!!』『ノーゲーム・ノーライフ』などに参加。いずれの作品でも監督の右腕として活躍、マッドハウス作品のクオリティを支える。本文中話題となっている『金の国 水の国』では監督を務めた。

増原光幸:監督/絵コンテ/演出
数多くの作品で絵コンテ・演出・助監督として参加。2008年に『チーズスイートホーム』にて初監督。以降『こばと。』『BLADE』『しろくまカフェ!』『ダイヤのA』『若おかみは小学生!』などの作品で監督を務めた。