Interview
――『金の国 水の国』でチャレンジしたことはありましたか。
増原 音楽面ですね。プロデュース側から二国間の大戦の緊張感を強調したいという意見が出たり、色々と議論が上がる中、主題に立ち返って考えてみたのですが、この映画はどちらかといえば壮大な戦争スペクタクル主体ではなく、「国家の元首でもなんでもないふたりが、2つの国の未来を救った」点なのではないかと…
渡邉 そのあたりの我々のイメージや、他にも複数の要因があって、戦争主体の路線は止めたんです。そこから、二人に寄り添う曲が発注されることになり……今回(BGMではなく)劇中歌が3曲あるのですが、そのうちの2曲は二人の心に寄り添うものになったんです。
増原 劇中歌もね、やるんだったら状況に付けるだけじゃなくて、二人の歌をちゃんと作りたかったからね。
――結果としては、とてもいいかたちで制作できたわけですね。
増原 あと、劇伴のメニューで、このカットからこのカットまでこんな感じって指定をしたよね。あれもチャレンジだったんじゃないかな。
渡邉 カッティングの映像ができている状態で音楽発注ができたので、そのイメージを指定したんです。
増原 そのうえで、曲を送り書きしてもらったんです。映像を先に作っていたからこそで、これは劇場作品ならではですね。TVシリーズのアニメではあまりないことだと思いますよ。チャレンジというより偶然ですが。
渡邉 作曲家のエバン(・コール)さんがいい方だったから(笑)。
――読者の方のためにお話を整理しますと、本来アニメの楽曲は「主人公の曲」とか「哀しみ2」とか「バトルシーン1」といったかたちで、絵よりも先に作るんですよね。で、その曲を後で作られたアニメの各シーンに振り分けていく。でも、今回は先にアニメが作られていて、そのシーンを見ながら渡邉さんと増原さんがエバンさんに説明し、曲を作っていった、ということですね。
増原 そうです。作曲家さんが凄く前のめりで、今回気合を入れていろいろやりたいと言ってくださって。
渡邉 「ここでタメがあって、ここで盛り上がりたいんです!」みたいな説明を、アニメを見ながらして。しかも2つの国で中央~南アジアと西アジアの文化圏を使うと話したら、エバンさんが「だったらその想定国の楽器を使ってみたい」と。だから今回、じつはアルハミトとバイカリでは、使われている楽器が違うんですよ。結果、曲は普通の劇場と比べると倍ぐらい発注しちゃってると思います。
増原 足し引きは最終的にしましたけど。で、先程お話した歌ものも3曲とも尺に合わせてくれていて。ここのシーンで盛り上がるから、サビが来てみたいな。
渡邉 エバンさん、「鎌倉殿(の13人)」で忙しいのに……。本当に珍しいやり方だと思います。
――増原さんも経験はないですか。
増原 『こばと。』ではま(たけし)さんに近いことはやってもらったことがありますね。
渡邉 私も『BTOOOM!』最終回合わせでオープニングとエンディングの曲を上手く合わせた曲を、わざわざ映像に合わせて作ってもらいました。
増原 だから、前例がないわけではないのですが、作曲家さんが前のめりにならないといけないし、条件が整わないと難しいんです。でも、本当に大事なんで。音楽が語ってくれることってすごく多いんですよ。可能であれば今後「マッドハウスのカラー」として、音楽とのシンクロ感、みたいなものは定着させていきたいですね。