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Interview

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❸『カードキャプターさくら』で培ったもの

――お二人はどんなときにマッドハウスらしさを感じますか。

濱田 わがままをある程度許してくれる、というと語弊があるかもしれませんが……(笑)。マッドハウスは「いいものを上げれば、それが正しい」といったところがあるかなと。なんでも挑戦させてくれる風土はある気がしますね。

浅香 こだわりはかなり聞いてくれるよね。僕が言うのもなんですが、『(カードキャプター)さくら』以降は、だいぶ今っぽい作品が多いですけど、それより前は「知る人ぞ知るスタジオ」だと思っていたんですよ。「渋くて面白い作品をやっているなと見ると、マッドハウスだった」みたいな。そういうイメージだったんです。りんさんや川尻さんのイメージが強かったですね。

――やはり『さくら』以降はイメージとして変わったと思われますか。

浅香 そうですね。変わったように思えます。テレビで一般受けしてソフトも売れるし、視聴率もある作品もやりつつ、特殊な監督を連れてきて個性的な作品も作るのを、裏で同時にやっていく、みたいなことが始まったのが『さくら』からかなと思っていますね。

――濱田さんは作画監督として最初の『さくら』に関わられていますけど、印象としてはいかがでしたか。

濱田 当時はまだ原画だったんですよ。それで(原画の)数をやれば作監もやらせてくれると言われたので参加したのですが……そこで設定もやらされて、結局2本しかやってないと思います。

――設定というのは。

浅香 精霊のカードを濱田さんに作ってもらったんです。

濱田 作監はエレベーターの回(57話「さくらと小狼とエレベーター」)と、さくらが過去に行ってクロウ・リードに会う回(68話「さくらと過去とクロウ・リード」)の2本だけですね。

――エレベーターの回は、ちょっとアブノーマルな感じのレイアウトでしたよね。覚えていらっしゃることはありますか。

濱田 その当時は今と違って時間があったので、レイアウトから全部直して、また描いてきたのも全部直してと。そこまで関われたので。けっこう自分の思い通りのものはできたと思っていますね。

――浅香さんから見て濱田さんの仕事ぶりは、どういう感じでしたか。

浅香 高橋(久美子)さんのキャラは……これはCLAMPさんのキャラと言ってもいいんですけど、けっこう難しいんですよ。可愛くシンボリックに描かれているのですが、ちゃんと立体がある。そうなると、なかなかうまく描ける人がいないんですよね。濱ちゃんは稀有で、そこをちゃんと描けるんです。空間や立体がちゃんと取れるアニメーターは貴重なんですよ。

――キャラクターを似せるだけではなく……。

浅香 似せた上で気持ちよく動くのが大事ですね。

――濱田さんご自身としても、そこは意識されていたのですか。

濱田 高橋さんの描くキャラがすごくいいので、自分なりに昇華して勉強したんですよ。

――ああ、そうだったんですね。じゃあ『さくら』で培ったものは……。

濱田 大きかったと思います。

浅香 植田さんとは絡んでないんだっけ。

濱田 隣でやっていたんだけど、ほとんど見ていなかったから。

――植田さんというのは……。

浅香 植田均さんという方がいるんです。アニメーターとしても極上の方なのですが、最初に場面設定や細かいところで『さくら』に関わってくださっていて。

濱田 作画はすごいものを上げているし、見ているのですが、あまり参考にしてないんですよ。

浅香 あれは描けないよね。

濱田 植田さん、消して何回も描き直してやっていたでしょう。一番いいものを作るために試行錯誤して。その上で最高のものができるじゃない。それはそれですごいやり方だと思うけど、そんなの普通の人、真似できないから(笑)。

――確かに、奇跡の一枚ですからね。

浅香 いや、すごかったですよ。

濱田 高橋さんは絵的なテクニックで研鑽されたものだから、修正集を集めることで練習しようと思えばできるんです。

――それを言える方も、なかなかいらっしゃらないと思いますが。

濱田 いや、やるかやらないかだと思いますよ。今けっこうやってない人が、多いと思いますけど。

――そうやって練習をすること自体を、ですか。

濱田 そうです。本人次第だと思いますよ。やれば誰でもできます。

浅香 よくいたよね。深夜に徘徊して先輩のゴミ箱の修正を漁ったりする人。

――先輩の書き損じを見て勉強していたと。

濱田 昔はキャラクターデザイン、作監、原画の人たちが、みんな同じ場所に集まって作っていたんですよ。今はもうそこに入ったらそのまま動かないから。接点がほとんどないんです。だから、教えようとしても教えられない状態なんです。上がったものに対して一応メモを書くのですが、それを本人が見ているかどうかまではわからない。

浅香 二原(第二原画)に行っちゃっているもんね。

濱田 下手したら何も見ない、という場合もあるし。勉強にならないんですよね。

――それは少し残念ですね。濱田さんから見た浅香さんは、当時どう映っていましたか。

濱田 好きなように動かしても許してくれるから(笑)。一緒に楽しんでくれているんだろうなと思って。けっこう好き勝手やっていたよね。

浅香 やってた(笑)。

濱田 こんなに好き勝手やる原画マンはあまりいないと思いますよ。そこに楽しみを見出していて、カット内容を超えたところで遊んだりしていましたね。

浅香 そうそう。でもそれは、重要なんです。

――原画のアドリブみたいなことですね。

浅香 的はずれなことをやられると駄目なんですけど、コンテで描いたテンションや芝居をクリアして、さらに上乗せしてくるアニメーターって、演出からすると嬉しいんですよ。

濱田 好き勝手やらせてくれているので、すごく楽しかったです。

浅香 それ語弊あるな(笑)。コンテに芝居を5コマや6コマ描いちゃうときがあるのですが、それは「最低限これだけやってみろ、これを超えてきてみろよ」と思って描くんですよ。

――原画マンへの挑戦状ですね。

浅香 そうです。下手な原画マンの原画やレイアウトだけで来たら、容赦なく直すけど、というメッセージなんです。そういうことを濱ちゃんは楽しんでくれるんです。


浅香守生:監督/絵コンテ/演出
マッドハウスを代表する演出家の一人。代表作は『カードキャプターさくら』(1998~2000年)、『NANA』(2006~2007年)、『ちはやふる』(2011~2012年)、『ちはやふる2』(2013年)、『俺物語!!』(2015年)、『カードキャプターさくら クリアカード編』(2018)、『ちはやふる3』(2019年)。

画面の隅々まで気を配り、巧みな技術で丹念に、ときに大胆に心情を描く、「詩情」を感じさせる演出で数々の作品を手掛けてきた。なかでも『カードキャプターさくら』は女子小学生読者が多い『なかよし』掲載の少女漫画が原作であったにも関わらず、「オタク」と呼ばれる大人の視聴者層を確立させたとも言われる。アニメ史に残る作品であり、日本のみならず海外のファンも多い。

濱田 邦彦:キャラクターデザイン/総作画監督/作画監督
初めて携わったマッドハウス作品は『Cyber City Oedo 808』。代表作に総作画監督・キャラクターデザインとして『NANA』、『俺物語!!』、『カードキャプターさくら クリアカード編』、『ちはやふる1~3』がある。人間味溢れるやわらかな表情を描き、浅香守生監督とタッグを組む作品が多い。