Interview
❻『山田くんとLv999の恋をする』は
コンテで膨らませられる作品
――ここからは、最新作の『山田くんとLv999の恋をする』のお話ができればと思います。少女アニメをずっとお二人でやられてきたと思いますが、本作でこれまで培ってきた経験は活きていますでしょうか。
浅香 どうだろう……特にないですね。
――少女漫画の文法みたいなものは……。
浅香 いや、むしろ「少女漫画だからこう見せよう」といった指針は、基本的にないんですよ。そういうのって、作品ごとに区切ってあるものだと思うので。
――では今回はまた新たな気持ちで挑まれたんですね。
浅香 そうですね。基本的にキャラクターのアピール度は下げたいと思っているので、カメラ目線でバッツリ決めて、髪がなびいてみたいのは、なるべくやりたくないなと思っていました。
――もう少しナチュラルなカメラワークや芝居感なんですね。
浅香 なるべく客観カメラで、とは思っていました。コンテ打ちするときも必ず「カメラ目線をやめてくれ」と。作品世界で、キャラクター同士でやり取りしているものを、こっちは覗かせてもらっている感覚で見たほうが、ドラマとして面白いと思っていたので。
「カメラ目線」って、あるキャラクターに同調した流れの時、その人が見て初めて成立するものだと思っているんです。それ以外は単なる視聴者アピールでしかない。今回は声の芝居にもそれを求めていましたね。
――例えば『ちはやふる』とかはそうではなかった
浅香 いや、『ちはや』も『さくら』もそうですね。ただ『さくら』の初期のときはそんなこともあまり考えずにやっていたんで、ガンガンカメラ目線を決めていますけど。
――濱田さんは今回もキャラクターデザインを担当されていますが、特に気をつけていたことはありましたか。
濱田 いや、もう、山田のキャラクターに尽きます。どれだけ美少年に描けるか。『ちはやふる』の太一も、『俺物語!!』の砂川も割と美少年なんで、そこは培ったものを活かせているつもりなんです。
――そうですか。では美少年であることは外せない。
濱田 外せないです。山田のキャラが全てです。
浅香 茜は……(苦笑)。
濱田 いや茜は、山田ほどじゃないから。
――山田は猫背気味ですが、そんななかでも美少年らしさをキープするポイントは、どんなところにあるのですか。
濱田 眼力ですね。あまり描ける人がいないので、ほぼ100%直しています(笑)。
浅香 適度な塩感を感じさせる目なんです。
――原作を読まれたときは、どんな感想を持たれましたか。
浅香 「どうしよう」と思いましたね。情報量が少ないんですよ。ただそれでも感情の起伏は激しくあるので、その不思議な感じや、テンポのよさをどう見せようかはすごく悩みました。
濱田 今回喜んでコンテを切っていたじゃない。
浅香 そうそうそう。
濱田 行間を読むのに、コンテで色々膨らませられるからね。『ちはや』は基本的にマンガのまんまコンテを描かなきゃいけないんですよ。そうではなくて今回はその行間があるから、自分の好きなように描ける部分があるんですね。
――1話でゲーム内チャットをしているときに、茜が話してから2分後に山田が文字を打ちますよね。かなりしっかり間をとって見せていますが、そのあたりはコンテのアドリブですか。
浅香 うん、そうですね。2分後に山田がレスしてくれるのは原作通りなのですが、アニメでどうせ時間軸ができるんだから、その間にお茶を飲んだりしてワンカットで見せようと。そんな感じで原作にある事象から派生して考えていますね。アニメだったらこう見せられるなと。
――アニメ演出への変換を楽しまれていたんですね。
浅香 テレビシリーズは半分以上実験だと思っているんですよね。
――一方で、浅香監督は安定したものをクオリティ高く作っていくイメージもありますが……。
浅香 でも同じことをやっていたら、むしろつまらなくなって、安定して見てくれないですよね。
――なるほど(笑)。今回は濱田さんがエンディングのコンテをやっていますが、絵コンテはこれまでも描かれているんですか。
濱田 『俺物語!!』のエンディングをやっているんですよ。
――今回は2回目のエンディングのコンテなんですね。どういったところを意識されましたか。
濱田 悩みました。本作業もどんどん積まれてくので。曲はだいぶ前に貰ったのですが、作業が全然できていなくて……けっきょく数週間で作った状態なんですよ。
浅香 でも、面白かったけどね。
濱田 実は歌詞通りのことをしているだけなんです(笑)。
――濱田さんは演出的な志向にご興味があるのですか。
濱田 やれることはやれるんですけど……。どちらかというと絵や動きにこだわりたいですね。
――今回、ゲーム世界のキャラクターはだいぶ頭身が低いですが、芝居を変化させていたりはしているのですか。
濱田 リアル志向じゃないと思います。でもゲーム世界はすごく描きやすいしノリよくやれるので。楽しんでやれましたね。
浅香守生:監督/絵コンテ/演出
マッドハウスを代表する演出家の一人。代表作は『カードキャプターさくら』(1998~2000年)、『NANA』(2006~2007年)、『ちはやふる』(2011~2012年)、『ちはやふる2』(2013年)、『俺物語!!』(2015年)、『カードキャプターさくら クリアカード編』(2018)、『ちはやふる3』(2019年)。
画面の隅々まで気を配り、巧みな技術で丹念に、ときに大胆に心情を描く、「詩情」を感じさせる演出で数々の作品を手掛けてきた。なかでも『カードキャプターさくら』は女子小学生読者が多い『なかよし』掲載の少女漫画が原作であったにも関わらず、「オタク」と呼ばれる大人の視聴者層を確立させたとも言われる。アニメ史に残る作品であり、日本のみならず海外のファンも多い。
濱田 邦彦:キャラクターデザイン/総作画監督/作画監督
初めて携わったマッドハウス作品は『Cyber City Oedo 808』。代表作に総作画監督・キャラクターデザインとして『NANA』、『俺物語!!』、『カードキャプターさくら クリアカード編』、『ちはやふる1~3』がある。人間味溢れるやわらかな表情を描き、浅香守生監督とタッグを組む作品が多い。