Interview
❹「面白くできた」、『NANA』のオープニング
――その後、浅香さんは『NANA』という毛色の違った作品を手がけられますよね。
浅香 少女漫画しかもスタイリッシュに絵柄とレイアウトと色を見せないといけないんです。そこが今までやってきたもののパターンにまったくないものだったので、難しかったですね。あと現物があるんですよね。
――現物、というと。
浅香 ヴィヴィアン(Vivienne Westwood) みたいな実際のブランドや場所がモデルになっていることが多くて。だから、そこはなるべく注意しながら作っていましたね。
――なるほど、(『CCさくら』の)友枝町とはそういう意味では違うわけですね。
浅香 違いますね。話数も多かったですし大変でした。
――濱田さんはこれが初キャラクターデザインですよね。
濱田 実は放送当日までキャラができなかったんですよ……。ラフはあったんですけど。あと自分が全部総作監じゃなくて、鈴木(美千代)さんに手伝ってもらって、半分以上やっていただいていたので。自分の中では消化不良な印象もあるんです。
――キャラクターデザイナーとして立ったのは、ご自身で手を上げたからですか。
濱田 いや、丸山さんにやれと……(苦笑)。ただ、キャラクターデザインの職種自体は機会があればやりたいなと思ったんで、嫌々じゃないです。
――キャラクターのバランス感が難しいのではないかと思うのですが、頭身などにご苦労はあったのですか。
濱田 ほとんど原作に忠実に拾ってきて作っているので、頭身のバランスは違和感がないんですけど、アニメーションでどれだけ動かせるか。塩梅が難しかったですね。
浅香 原画を描くときは難しいだろうね。手足が枝のように細長いキャラクターなので。
――最終的に、『NANA』はマッドハウスの代表作として挙げられることも多い作品になりましたが……。
浅香 そうですね。ただ、矢沢(あい)さんの原作がちょっと止まっているので……。そこはずっと気にはなっているんです。
――音楽作品でもありますが、そのあたりで工夫はあったんですか。
浅香 ボイスキャストにしてもいいんじゃないかと思えるぐらいに、土屋アンナさんがよかったんです。実際にナナが作中で歌っているところは朴璐美さんじゃなくて土屋さんが歌っているところもあったりするんですよ。そこは面白かったですね。オープニングも面白くできたと思うし。
――オープニングは複数ありましたが、どれも浅香さんのコンテですよね。
浅香 そうですね。3本目のLUCYはすごく気持ち良かったですね。
――どれも鮮烈で「浅香監督といえばオープニング」みたいな印象も少しあるのですが。
浅香 ううん、そうですか?毎回悩みながら作っていますけど(笑)。
――浅香監督特有の表現的な発明が、特にオープニングには凝縮されている気がしますが、そういう意識はあるのですか。
浅香 ああ……。なるべく他の人がやってないことはやろうかなと思っています。『ダイヤのA』の2本目のオープニングは、いろんなことを試してみましたね。ピッチャーが5~6人いて、投球フォームの途中で人を変えていく……。
――あれは衝撃的でしたね。
浅香 自分でも見てみたかったんですよ。「どうなるんだろう?」と思って。バンバン(佐藤雄三)さんに後で、「なんであんなことしたの? 最初からコンテで決めてたの?」と聞かれて。「コンテで決めました。実験です」と言っていましたね。
浅香守生:監督/絵コンテ/演出
マッドハウスを代表する演出家の一人。代表作は『カードキャプターさくら』(1998~2000年)、『NANA』(2006~2007年)、『ちはやふる』(2011~2012年)、『ちはやふる2』(2013年)、『俺物語!!』(2015年)、『カードキャプターさくら クリアカード編』(2018)、『ちはやふる3』(2019年)。
画面の隅々まで気を配り、巧みな技術で丹念に、ときに大胆に心情を描く、「詩情」を感じさせる演出で数々の作品を手掛けてきた。なかでも『カードキャプターさくら』は女子小学生読者が多い『なかよし』掲載の少女漫画が原作であったにも関わらず、「オタク」と呼ばれる大人の視聴者層を確立させたとも言われる。アニメ史に残る作品であり、日本のみならず海外のファンも多い。
濱田 邦彦:キャラクターデザイン/総作画監督/作画監督
初めて携わったマッドハウス作品は『Cyber City Oedo 808』。代表作に総作画監督・キャラクターデザインとして『NANA』、『俺物語!!』、『カードキャプターさくら クリアカード編』、『ちはやふる1~3』がある。人間味溢れるやわらかな表情を描き、浅香守生監督とタッグを組む作品が多い。