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Interview

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――先ほど、「マッドハウスは、プロデューサーが作品選定をする」との話がありましたが、『AIの遺電子』は芦川さんのセレクトなんですか。

芦川 そうです。『AI』に至るまでいろんな原作読ませていただいて、どれが佐藤監督に向いているかを考えたんです。この作品は初見で面白かったですし、好きなジャンルでもあったので、監督にも読んでいただいて。

佐藤 面白かったです。意外と連載が長くてね。「RED QUEEN」や「Blue Age」と続いていくんですよね。

芦川 今回アニメ化するのは、一番最初のいわゆる無印ですね。

佐藤 無印は1本1本ドラマになっている一話完結系の話がメインなんですよ。だから「RED QUEEN」とどちらかを作るとしたら、通しよりこっちかなと。

芦川 でも自分が選んだときには「RED QUEEN」は読んでいなかったんです。無印の8巻分を読んで……なんというか、心に引っかかるものがあって……。

佐藤 面白いのがね。自分がいいなと思える内容とは違うエピソードに、芦川がはまっているんですよ。「これこそがすごくいい話」だと。

芦川 SFマインドに溢れる話だと、ピンとくるんです。

佐藤 いや、世代の違いな気がするけどな。

芦川 そうですかね? いずれにせよ、いろんな方に届けるという意味でもすごくいい作品だなと。クライアントさん含めて、みんなそれぞれ好きな話が違うんですよ。だからこそ、構成も結構頭を悩ませました。

佐藤 静かな時間が流れるだけ、みたいな話も原作にはあるので、そういった内容をどう扱うか、様々な作品性のあるエピソードをどのように構成するかは、これまでやってきた作品にはない難しさがありました。

芦川 シリーズ構成の金月(龍之介)さんもシナリオの段階で色々とご苦労をおかけして。

佐藤 そうだね。みんなで悩み抜いて、金月さんにも時間をかけてしっかりやっていただけて。

芦川 これはオンエア前のインタビューだと思いますので……。原作からいろんなところをチョイスして、組み合わせたりしている話数もあるので、ストーリーを知っている方も、面白く見ていただけるんじゃないかなと思います。ぜひどの話が入るのかを楽しみにしていただきつつ。原作未読の方については、原作にはさらに様々な話がありますので、ぜひそちらも楽しんでいただきたいです。

――それにしても、これまでの佐藤監督作品とは少し違う印象を受けました。こういった作品を手がけられること自体、意外です。

芦川 確かにヒリヒリした心理戦とはだいぶ違いますね。だから、佐藤監督的にチャレンジしていただいた作品だとは思っているんです。佐藤監督の新しい試みも楽しんでいただけるのかなと。

――芦川さんとしても、それを見越しての佐藤監督だったということですか。

芦川 そうですね。

佐藤 言わされているんじゃないですか(笑)。

芦川 いやいや(笑)。さっきの話に戻るのですが、プロデューサーの立場になって、監督決めも、作品選定もやらせてもらえる立場になったので。私の趣味も入りつつ「佐藤監督、新しい作風でどうでしょうか」とお伝えしたんです。

――佐藤監督としては、どういうところにチャレンジをしたのでしょうか。

佐藤 細かい感情表現を丁寧にやったつもりです。『AI』は、そういった繊細なところに気を遣わないとダメだと、やりながら痛感していました。見逃しかけると芦川が引っかかるんですよ。「ここの表情は違うんじゃないですか」と僕以上に突っ込んでいましたから。

芦川 大事ですからね!

佐藤 だから、『AI』はあえてスタンダードな演出術に徹しています。『アカギ』や『カイジ』のやりすぎくらいの濃い芝居よりは、ナチュラルな芝居が多いので。繊細な表情付けを含め、リテイク出しで何度もすり合わせをしました。かなり丁寧には作れていると思うのでぜひご覧いただきたいです。

――繊細、という話がありましたが、原作の魅力はそういうところに感じられているのでしょうか。

芦川 そうですね。もっと言うと、「150年後の未来」という舞台設定ではあるのですが、そこに生きている市井の人々、その生活の積み重ねで世界を作っているところでしょうか。綺麗なものだけではなく、汚いところも含めて描かれているので。地に足の着いたリアルな感情表現だから、現代を生きている私たちにも響くものがあるんです。

佐藤 言ってみれば、人種が一人増えているだけなんです。そこで取り上げられている悩みは、差別やジェンダー、その新しい人種たちの葛藤でして。我々としても、見せたいのはそのドラマの部分なんですね。
あと、作っているときによく言っていたのは「正解のない話ばかり」ということなんです。立ち位置が変わればどちらも正解だし、どちらも間違いかもしれない。その深さについて「すごいな」と思いましたね。山田(胡瓜)先生の着眼点は非常に面白かったです。

芦川 Midjourney(※注:テキストから画像を生成する人工知能プログラム)といったAIも、今、世の中的にずいぶん幅を利かせ始めていますよね。顔認証だって少し前までドラマの話かと思っていましたが、普通に防犯で使っていますし。原作は2015年から連載されているのですが、逆に今すごくリアルに感じられるエピソードがいっぱいあって。先生には先見の明がありますよね。

佐藤 この前もニュースで流れたAI絡みのニュースを見ていて、「あれ? これ原作漫画に取り上げられている話だな」って。

――ああ、そっちが先に立つんですか。

佐藤 「今放映をやっていたらな」と思いましたよ(※注:この取材は放送の約半年前に行われた)。こっちが後出しになっちゃうと感じるけど、違うのにって(笑)。


佐藤雄三:監督/絵コンテ
サンリオ、スタジオぎゃろっぷ等を経て、マッドハウスで活躍中。代表作に『YAWARA!』(作画監督)、『MONSTER』(絵コンテ、演出)、『闘牌伝説アカギ〜闇に舞い降りた天才〜』、『逆境無頼カイジ』シリーズ(いずれも監督)などがある。近年では2022年1月放映の『ハコヅメ』で監督を務める。

芦川真理子:プロデューサー
2008年マッドハウス入社。『はじめの一歩』、『HUNTER×HUNTER』等の作品で制作としての経験を積み、デスク、設定制作、アシスタントプロデューサーを経て2022年1月放映の『ハコヅメ』からプロデューサーを務める。